月別アーカイブ: 2017年8月

『中年クライシス』

河合隼雄『中年クライシス』(朝日新聞社 1993)を手に取ってみる。
1990年代前半あたりからジェンダー的観点から男性作家の文学の読み直しが行われているが、これはその「中年」版である。筆者の敬愛するユングの言説から、周囲との関係の変化や違和感を読み解いていく。
と言っても、一章も読むことはなかった。帯の宣伝文句だけ引用しておきたい。

「我が国を代表する心理療法家が、漱石から大江健三郎までの日本文学を読みとき、「人生後半」の心模様の危機を捉え、さまざまな生き方を探る。待望の画期的「中年」論

マレーシアで鉄道着工

本日の東京新聞朝刊国際面から。
中国の習近平政権が進める現代版シルクロード経済圏構想「一帯一路」のマレーシア国内でのプロジェクトが本格的に指導した。中国にとってマラッカ海峡は南シナ海からインド洋に抜ける一帯一路の要衝であると同時に、輸入石油が通過する安全保障上の生命線でもある。シンガポールに展開する米軍によって封鎖されるリスクがあり、中国は東海岸鉄道によってマラッカ海峡を通らない物流ルートを確保できる。野党からは「恩恵を受けるのは中国企業だけ」との批判も上がっているが、豊富な資金力をテコにした中国のインフラ整備支援は南シナ海での領有権問題で対立する国を切り崩す武器にもなっている。

マレーシアとシンガポールの対立を利用した、思惑付きのインフラ投資であり、

『最貧困女子』

鈴木大介『最貧困女子』(幻冬舎新書 2014)を読む。
著者は「貧困」について、低所得に加えて「家族の無縁・地域の無縁・制度の無縁」に陥った状態と定義する。路上に彷徨い、現金収入のあてもない孤立無援の家出女性にとって、住む場所と現金収入、携帯電話、そして彼女の境遇に共感する仲間がいる風俗業は、セーフティネットと言っても過言ではない。家族や地域から締め出され違法なセックスワークに従事する女性の取材を通して、著者は官製のセーフティネットが機能していない現実に忸怩たる思いをぶつける。
また、執筆当時の景気の悪化で、昼の正業を持った女性がデリヘル業界に参入してきて、格差が生じつつある現実にも触れる。

本日の東京新聞国際面から

日本統治時代に徴用された朝鮮半島の労働者を象徴する高さ約2.1メートルの像が12日、ソウル中心部の竜山駅前広場に建立され除幕式が行われた。長崎県の造船所で強制労働させられていたとする金漢洙さんは「遅かったが良かった。目に見える像があってこそ思い出される」と述べている。

北九州を中心とした「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業」が世界遺産に登録された以上、その建設を担った人たちの像が建立されるのは望ましいことである。ソウル近郊の仁川市の公園にも設置されるそうだが、日本の産業革命遺産の近くにも是非設置して頂きたい。

ミャンマーのアウン・サン・スーチー国家顧問が率いる国民民主連盟の政権下で、インターネット上で政府や国家を批判した報道関係者の逮捕が相次いでいる。

民主主義を守るためには、暴力的言説や特定の人物に対する差別的発言を封じることも時には必要である。但し、それは政府や国家に対する言論・出版・表現の自由と一体のものとして発動されなければならない。政府や国軍に言及しただけで逮捕されるというのであれば、アウン・サン・スー・チー国家顧問の政策はノーベル平和賞に値しない。

カンボジアのフン・セン首相は11日の演説で、隣国ラオスの兵士が国境を越えカンボジア領に侵入しているとして非難した。両国の国境が完全に確定していないカンボジア北東部のストントレン州に約30人のラオス兵が現在も帰国していないという。

カンボジアとラオスの間に国境問題があるとは知らなかった。地図で調べると、メコン川の支流であるトレン・コン川の流れが国境となっている。河川自体が人間が作った国境に沿って流れている訳ではないので、両国にはおおらかな対処を期待したい。

インド亡命中のチベット仏教最高指導者ダライ・ラマ14世は11日の声明で、高齢に伴う体調不良を理由にアフリカ南部のボツワナ訪問を取りやめることを明らかにした。それに先立ち中国外務省は会見で「チベット問題は中国の主権と領土保全に関わる。他国が中国の核心的利益を損なうことは決して容赦できない」と述べ、ボツワナを牽制していた。

中国外務省に同じ言葉を返すならば、「チベット問題はチベットの主権と人権に関わる。中国がチベットの核心的利益を損なうことは決して容赦できない」となるだろうか。

本日の東京新聞国際面

本日の国際面は東アジア尽くしであった。

まず、先月亡くなった中国のノーベル平和賞受賞者の劉暁波氏を支援した人権活動家だが、現在も軟禁状態が続いているという。劉氏の死は中国国内ではほとんど報道されず、庶民には知られていない。「劉暁波」や妻の「劉霞」で検索しても結果は表示されないように規制が加えられている。

劉暁波
中国の作家で民主活動家。米コロンビア大学客員研究員だった1989年、民主化を求める学生らの運動を弾圧した「天安門事件」で、学生を支援。2008年、言論の自由を訴える「08憲章」を発表し拘束され、国家政権転覆煽動罪で11年に判決を受け服役した。10年に獄中でノーベル平和賞を受賞。末期の肝臓ガンで国外での治療を希望したが、遼寧省瀋陽市の病院で死亡、遺骨は海葬された。

また、香港民主派政党の民主党員が、九竜地区の繁華街で標準中国語を話す男らに連れ去られ、劉霞さんとの面識の有無などについて詰問され、監禁暴行を受ける事件も発生している。

また、別記事であるが、中国の国家インターネット情報弁公室は11日、国家の安全に危害を与える情報が含まれているとして、「ネット安全法」に基づいて大手ネット3社の一斉調査に乗り出したとのこと。中国版LINE(ライン)に当たる「微信」、中国版ツイッター「微博」、検索エンジン「百度」の掲示板で、いずれも中国で広く利用されているネットサービスである。同弁公室は「暴力テロや虚偽情報、わいせつな情報を拡大させており、管理義務が不十分だ」と調査の理由を説明しているが、今秋の共産党大会を控え、習近平指導部による言論統制の一環とみられている。

他にも、北朝鮮の官製集会の記事が大きく掲載されていた。中国国内では表現の自由が認められていない。それは報道の自由や表現・通信の自由が認められると、共産党支配層への批判が集中し、「天安門事件」のような叛乱が起きることを危惧するに他ならない。一方で、そうした中国を揶揄できるほど、日本は民主化が熟成しているのであろうか。目糞鼻糞を笑う状況になってはいないか。