東京アカデミー編『教職教養』より
千葉大対策 生涯学習について
1 生涯学習の夜明け
1965年12月、かねて成人教育の在り方について話し合っていたユネスコ成人教育推進国際委員会で、ポール・ラングランが「education permanente」という全く新しい教育理念を提案した。後にまとめられた『生涯教育について』の中で、彼は「教育は、児童期、青年期で停止するものではない。それは、人間が生きている限り続けられるべきものである」と述べている。
その後この語を英訳するにあたって、オックスフォード大学のフランク・ジェサップは、「life long intergrated education」とした。このintegratedは、その後の理論構築にも大きな意味を与えた重要な言葉であった。この言葉の意味する「統合」は時間的系列と空間的ひろがりの統合として捉えられた。
縦の統合
→ひとりの人間の一生の各段階で、それぞれに相応しい学習機会が確保される
横の統合
→学習の機会が学校だけでなく、生活のあらゆる場において確保される
2 生涯学習の契機と理念
生涯学習が提唱された契機については、いろいろな要因がいろいろな人によって挙げられている。その一つとしてポール・ラングランはその著書である『生涯教育入門』の中で次の五つの要因を挙げている。
- 産業社会の速さ
- 情報化社会の到来
- 高齢化社会の到来
- 学校教育硬直化の反省
- 所得水準の向上と自由時間の増加
従来の教育観においては、学習の時期は主として児童期・青年期に限定され、とりわけ学校教育システムのなかで年長者が年少者に施す作用とされてきた。これに対置する形で、生涯学習理論は、自己学習を核に幼児・青少年はもちろん、成人・職業人・家庭人・高齢者も、生まれてからこの世を去るまで学び続けることを提示した。さらに、学習の場も、学校・社会教育施設(図書館・博物館・動植物園)・企業等あらゆる所に求められるようになった。これらを統合(integration)した理念が生涯学習である。
3 生涯教育についての戦略
☆生涯学習審議会答申「今後の社会の動向に対応した生涯学習の振興方策について」(1992)
- 一人一人の学習成果を生かしたボランティア活動の推進
- 社会人を対象とした体系的・継続的なリカレント教育の推進
- 時代の要請に即応した現代的課題に関する学習機会の充実
- 青少年の学校外活動の充実
☆生涯学習審議会答申「地域における生涯学習機会の充実方策について」(1996)
- 社会に開かれた高等教育機関
- 学校教育と社会教育の融合
☆生涯学習審議会答申「学習の成果を幅広く生かす」(1999)
- 個人のキャリアに生かす(On the job Training,Off the job Training)
- ボランティア活動に生かす
- 地域社会の発展に生かす
☆生涯学習審議会答申「生活体験・自然体験が日本の子どもの心をはぐくむ」
子どもの「生きる力」をはぐくむためには、家庭や地域社会等で子どもたちに生活体験や自然体験を意図的・計画的に提供する必要があるとし、「当面緊急にしなければならないこと」を提言している。
4 今日の課題
1.リカレント教育
今後さらにリカレント教育の体制を整えるためには、教職員のリカレント教育への理解を深めていかなければならない。社会人の要求に答えられるように、広い意味での教育を展開できるよう努力する必要がある。リカレント教育の目的は、職業上必要な専門的・実践的な技術や知識を学ぶことによって、個人の自己実現を目指すことである。
2.ボランティア活動の課題
活動領域は多岐にわたっている。今後はさらに企業などによる社会貢献活動や、開発途上国や在日外国人に対する支援などの国際協力の分野での活動も注目されるだろう。
考えておくべきこと
- ボランティア活動や地域活動に対する経験や意欲
- 「学ぶ」ということはどういうことか?
- 「生きる力」に欠ける子どもたちが増えている現状
- 経済の構造改革が叫ばれる中で、社会人教育についてどう考えるか?