月別アーカイブ: 2006年9月

『君ならできる』

ここ最近忙しくて本を読む暇が無い。仕事の予習に普段以上に時間を費やされ、また、家族が病院にかかったりで気持ちが少しばたばたしている。来週は少しゆっくりできそうなので、気持ちを入れ替えたい。

小出義雄『君ならできる』(幻冬舎 2000)を読む。
シドニーオリンピックの直前の2000年9月に、高橋尚子選手や有森裕子選手を育てた名伯楽の著者が、マラソンの監督としての選手育成の秘訣や心構えを述べる。しかし、その内容は単にスポーツの監督の域を越えて、より良く生きるための極意ともなっている。とくに怪我や病気など陸上に付き物のマイナス要因をプラスに置き換えて選手を叱咤激励する姿勢は見習いたいものだ。

高橋がケガをしたり、風邪をひいて焦っているときには、
「悔しいかもしれないが、そうじゃない。もしも土壇場で風邪をひいたりケガなんかしたら、スタートラインにつけない。いま、『せっかく』ここで風邪をひかせてくれた、ありがたく休めということなんだ」
そういってやる。せっかく転んでケガをした。せっかく食中毒を起こした。「せっかく」と思うところから、別の見方が生まれてくる。ここでお腹が痛くなった「せっかく」お腹が痛くなったのだ。ありがたい。そんなふうに理解しておけ、と。「せっかく」という言葉を覚えておきなさい。この言葉は仏教の教えだが、私自身も日々心懸けている。
なにかあったときには、「せっかくこうしてくれた、感謝、感謝」そう思う心が大切なのだ。

『世界の中心で、愛をさけぶ』

片山恭一『世界の中心で、愛をさけぶ』(小学館 2001)を読む。
白血病で彼女を亡くした主人公の男子高校生の一人称の語り口で、彼女との楽しい思い出や、彼女の死後の喪失感、そして、生きること死ぬことの意味が語られる。白血病を題材とした陳腐なドラマ仕立てであるが、後半、つい涙腺が潤んでしまった。

オウム事件

本日の東京新聞の朝刊は一面、オウム真理教麻原被告の死刑確定の記事で埋められていた。96年の4月から公判が始まり10年余りが経った。改めてここ10年の時代の雰囲気の変化に驚かされた。テロをぶっ潰すというブッシュ大統領の妄言に付き添って自衛隊が海外に派兵された。また、怪しげな宗教・政治団体やテロ組織を取り締まるという名目で、警察による「予防拘禁」な取り調べも日常の風景となった。インターネットという自由な表現ツールはうまく軌道に乗ったが、一方で自由な表現活動そのものは大きな制限を受けている。
識者のコメントして、作家の宮崎学氏は次のように述べている。彼の指摘する「閉塞状況」についてもう少し調べてみたいと思う。

ぼくらが若いころ、社会に対して持った問題意識は、宗教を通じてしか持ち得なくなったのか、という思いがあった。閉塞状況の中から生まれてきた組織、つまりオウムは、その閉塞状況を打ち破ることができずに終わった。大きな衝撃を与えたが、社会はさらに閉塞を強めていったにすぎない

また、事件後の教団信者を追うドキュメンタリー映画を撮った森達也さんは次のように語っている。

法治国家の崩壊だ。オウム事件以降、世間では「体感治安意識」と呼ぶべきものが高まって、悪の排除に躍起だ。だが原因を徹底的に追及しないから、恐怖や不安しか残らない。不安に駆られた人々は米国型の「武装」へと傾いていくだけだ。憲法九条もいよいよ危ない

障害者雇用率

9月9日付けの東京新聞の埼玉版に障害者雇用率を向上させようと、埼玉県が外食産業の顕彰を始めたとの記事が載っていた。埼玉県の民間企業の障害者雇用率は法律で定められた1.8%を下回る1.41%であり、全国平均1.49%すら下回っており、就職先が見つからない就職希望の障害者が七千人にものぼる。上田知事は「関係機関がより一層連携した障害者雇用サポートセンター(仮称)の設置も検討していく」と述べ、障害者雇用の改善に向けた施策の検討をしているという。
しかし、まずは民間企業に雇用の促進を促す前に、自らの襟を正すべきではないか。埼玉県の機関の障害者雇用率は法定雇用率2.1%を上回る2.78%であるが、県内市町村は最低基準ぎりぎりの2.1%である。さらに、県教育委員会に至っては、2.0%の法定雇用率を大きく下回る1.10%である。教員免許制度の壁により、教育委員会自体の障害者雇用率は全国的に見ても低い。しかし全国の教育委員会の障害者雇用率の平均は1.39%であり、それに比べても埼玉県は改善の余地が多いにある。「無駄」な教職員を減らして、ノーマライゼーションをすすめていくための提言をしていきたいと思う。

『プロ野球「人生の選択」』

二宮清純『プロ野球「人生の選択」』(廣済堂 2003)を読む。
中学高校で部活動の一環として行なわれる野球とは全くの別競技といってもよい職業野球の世界。かといって一般の職業とは全く別の労働観が支配するプロスポーツの世界。また、バスケットボールやバレーボール、その他諸々のプロスポーツとは比べるまでもないほど高い注目を浴び続けるプロ野球の世界を、選手、監督、バッター、投手、そして移籍や引退、大リーグ、巨人軍という様々な視点から明らかにする。
野球はレギュラーの一人ひとりにポジションと打順が与えられ、チームというグループの中で、個人個人が自己覚知を踏まえて、技術と能力を伸ばしていくシステマチックな競技である。たしかに、野球は状況状況での的確な判断、構成員同士の言語・非言語コミュニケーション、チーム力と個人力の連携など、社会福祉で必須とされるキーワードが数多く用いられる珍しい競技である。