月別アーカイブ: 2006年7月

『ぼくは勉強ができない』

山田詠美『ぼくは勉強ができない』(新潮社 1993)を読む。
 高校3年生の主人公時田秀美くんが、周りの友人や大人がからめとられている常識や習慣に、猪突猛進にぶつかり、そこから成長の糸口をつかんでいく。恋愛やセックス、大学受験などの困難をすべて成長の糧とする若さと経験主義にあふれたビルドゥングスロマン小説である。
 ぜひとも高校1年生の頃に読みたかった小説だなあと感じながらページを繰っていった。するとあとがきで、山田詠美さんは「私は、むしろ、この本を大人の方に読んでいただきたいと思う。私は、同時代性という言葉を信じていないからだ。時代のまっただなかにいる者に、その時代を読み取ることは難しい。叙情はつねに遅れて来た客観視の中に存在するし、自分の内なる倫理は過去の積木の隙間に潜むものではないだろうか」と付け加えていた。確かに「青春小説」は既に青春を過ぎてしまった者にこそ価値があるものかもしれない。青春の最中にいる者にとってはこれからの人生の方が小説よりも面白いものであり、小説を味わっている時間の方が勿体ないのだから。

ぼくの前に何が立ちはだかるかは、まったく予測がつかない。ぼくは、ぼくなりの価値判断の基準を作っていかなくてはならない。忙しいのだ。何と言っても、その基準に、世間一般の定義を持ち込むようなちゃちなことを、ぼくは、決してしたくないのだから。ぼくは、自分の心にこう言う。すべてに、丸をつけよ。とりあえずは、そこから始めるのだ。そこからやがて生まれて行く沢山のばつを、ぼくは、ゆっくりと選び取って行くのだ。

『歌がわが子の頭をよくする』

公文公・小田林浩子『歌がわが子の頭をよくする』(くもん出版 1988)を読む。
ゼロ歳児の子どもに童謡を聞かせることで、子どもは言葉を早く覚え、その結果運動面や生理面における成長も早まるという。ソニーの創業者盛田昭夫氏も同様のゼロ歳児教育を提唱していたが、つまりは、幼児に言葉や音楽、手足の動きなど様々な刺激を与えることが脳の発達に有効だという説である。遊びの中で、絵本や童謡、ジグソーパズルなど多くのツールを活用し子どもと触れ合うことが肝要だと述べる。私も早速神保町にて、童謡が流れる絵本とあいうえおのカードを購入してきた次第である。
公文式の神業的な教育的効果を強調するあまり、生後32日で「おかあさん」と発声し、二歳で方程式が解けるようになった神童が紹介されていたが、少々いかがわしい印象の残る内容ではあった。

また、近年公文式では、自閉症、知的発達遅滞、LD(学習障害)、ADHD(注意欠陥/多動性障害)、ダウン症などの障害のある生徒も、学習を続けるうちに「机に向かって座れるようになった」、「単語でしか話せなかったが、文脈の通じる会話になってきた」など社会性をともなう変化が見られているという。(詳細はこちら)
どれぐらいの生徒に効果があるのかは分からないが、公文式は、個々の生徒の興味と動機に応じたプログラム学習となっているので、多人数で一斉学習を行なう学校での勉強よりも馴染みやすい生徒は少なからずいるであろう。個々の生徒の実態を見きわめる判断は必要であろう。

〈社会福祉援助技術論4〉

 昨日社事大通信教育科社会福祉士養成課程のレポートを全て提出した。4期にわたって通算28本のレポートを書いたことになる。ほとんど参考書の要約に過ぎないものだが、時間のない中で文章をまとめる練習にはなった。残すは9月のスクーリングと来年1月の国家試験だが、さて試験対策はどうしたものか。。。

社会福祉援助技術論4

 規制緩和の流れを受けて、近年学校法人でなくても、学校経営が行えるようになった。ここでは社会福祉法人格での私立の養護学校の現状と展望を論じてみたい。
現在養護学校高等部が充実し、身体障害や重度の知的障害児だけでなく、LD、ADHD、高機能自閉症といった軽度発達障害児の受け入れ体制も整いつつある。しかし、高等部を卒業しても、すぐに就職することは難しく、働くための準備段階として授産施設ないし作業所に行く者が多い。しかし、そうした施設での作業と就職先での仕事はかけ離れており、長期にわたる準備段階を過ごす卒業生も多い。また、施設の職員も本気で就職支援に向けた取り組みをするでなく、保護者の方が結局は安定を求め、就職に二の足を踏んでしまうことが多い。

 そうした中で、県立の盲・聾学校では高等部卒業生のために教育と労働の接点として専攻科を置き、学習指導要領では行えない指圧師や鍼灸師、理美容師など自立可能な資格を得るための授業を行なっているところも多い。実際に専攻科で資格を得て、就職した者も数多くいる。しかし、知的養護学校で専攻科を設けているところは、全国でも私学7校のみである。07年度に鳥取大学付属養護学校で公立では初めて専攻科を置くそうだが、その専攻科では、働く際に役立つようなホームヘルパー二級や自動車運転免許などの資格取得を支援し、さらに、在学中に成人する学生のため、年金の管理や参政権の行使、福祉事務所の公的機関の利用方法をも教えるということだ。かなりの需要が見込めるにも関わらず、定員は3名だけである。

 私は今後、こうした養護高等部卒業後に実践的な資格を得るための教育機関が求められると考える。企業でのOJTや自動車免許取得は県立の養護高等部で行なうことはできない。数少ない私立の知的養護高等部専攻科では、実際の就職先と同じ作業の学習を行なうことで、スムーズな就職支援を可能としている。また、地域の企業や団体と契約を交わし、校外作業と仕事を一体のものとし、給与を支払う専攻科を設けている学校もある。

 さらには、福祉施設では機能しにくい保護者会も、養護学校ではうまく組織化が可能である。社会福祉法人では、保護者と一体となって自前の施設や作業所の開設までこぎつけることができる。

 昨年神奈川県で構造改革教育特区認定でLD児のための学校ができたが、その教育内容は一人ひとりに応じた指導など公立の二番煎じに過ぎず、経営は苦しいようだ。知的養護学校では陸上、サッカー、バスケットボールなど勝敗や得点の見通しが持ちやすい部活動が好まれる傾向にあるが、特殊教育においても、活発な部活動や就職実績など学校の特色を明確にした私立法人がどんどん参入し、よいサービス合戦を展開していく必要がある。

〈参考文献〉
 一番ヶ瀬康子・河畠修編、大漉憲一著「自立って、なに」『障害ってなんだろう』旬報社、2002
 鈴木静子『向日葵の若者たち:障害者の働く喜びが私たちの生きがい』本の泉社、1998
 全国専攻科(特別ニーズ教育)研究会HP http://www.geocities.jp/zensenken/ 06/7/15確認
 湘南ライナス学園 http://www.linus.ac.jp/index.php 06/7/15確認
 大出学園若葉養護学校HP http://www.sugoizo.net/t04/wakaba-y/index.html 06/7/15確認
 やしま学園高等専修学校HP http://www.yashima.ac.jp/kousen/ 06/7/15確認
 旭出養護学校HP http://www16.ocn.ne.jp/~asahide/ 06/7/15確認

〈社会福祉援助技術演習4〉

 今年の初め,知的障害者更正施設で現場実習を行なった。重度の知的障害者との触れ合いの経験を踏まえて,論を進めていきたい。

〈生活リズムの確立〉
 知的障害者の場合,利用者ごとにこだわりが強く,バランスのよい食生活や睡眠のリズムが崩れることが多い。個々のこだわりやわがままを抑え,集団生活の中で,食事や睡眠のリズム,適度な運動や入浴の習慣を身につけさせていきたい。生活のパターンをむやみに変えていくと混乱を生じさせるので,基本的に毎日同じ時間に同じ行動を全員で行うことを原則としたい。食事の時間や席次,顔ぶれも同じくし,運動も曜日ごとにパターンを決めて全体の日程を組むと,見通しを持ちやすく,パニックを起こすことも少ない。

〈身辺処理の自立〉
 更衣や通所通勤,持ち物の管理といった自律的生活習慣においては,個々の利用者の生活能力と行動力に応じ,一人ひとりに合ったプログラムを組んでいきたい。一から十まで支援するのではなく,利用者の現能力より少しだけ高いところに目標を置き,支援者の指導と助言によって,利用者が努力と達成感を適度に得られるような工夫があるとよい。例えば,服を着替えることができるが自分で行おうとしない利用者に対しては,指図と声掛けを中心に行い,ボタンやベルトを締めることが難しい利用者へは,手を支えて行動を促すなど,本人の行動を少しだけ支えるようにすると利用者とのやりとりもスムーズである。

〈仕事(作業)への参画〉
 朝起きて作業現場に赴き,仲間とともに作業に携わり,報酬を得る仕事は,社会に関わる自分の存在と責任を確認することができる最も人間らしい行動である。利用者の能力と意欲に応じた労働の場所と機会を少しでも増やしていくことが,福祉援助の大目標である。
 重度の知的障害者の場合,見通しの持ちやすい作業体系を組んでいく必要がある。行動の確認が取れやすいように,それぞれの工程を細かく分割し,一つの作業を単純にするといった工夫が求められる。さらに,自分の関わった作業が最後に完成形として見えやすくすると達成感を得やすい。陶芸や手芸など完成したものを手に取ったり,清掃活動やジグソーパズルなど明らかに目に見えるゴールを設定することが求められる。

〈家庭・地域との連携〉
 知的障害者を受け入れてくれる福祉工場や授産施設,作業所はまだ少ないのが現状である。家族や行政,地域のボランティア団体との協力で,先頭に立って施設や作業所を開設していくことも福祉援助技術に含められる。
 重度の知的障害者を長いスパンで支援していくには家族の理解と協力が不可欠である。障害者を支える家族は家族関係含めて様々な悩みを抱える事が多い。家族支援を視野に入れた福祉援助技術が,今後の社会福祉士には求められる。

〈参考文献〉
飯田雅子・一番ケ瀬康子「障害者福祉Ⅱ」『新・社会福祉とは何か?』ミネルヴァ書房,1990

〈児童福祉論2〉

 私の居住する埼玉県春日部市における次世代育成支援計画について述べてみたい。東京のベッドタウンとして発展してきた春日部市も,2003年の段階で,合計特殊出生率1.13と全国平均を大きく下回っている。また,恐喝や暴行などの少年犯罪も増加している。

 市のアンケートでは,子育て支援として,経済支援がトップを占め,次に保育所や幼稚園の整備,さらに児童館や公園などの子どもの遊び場の拡充が挙げられている。これらの調査を踏まえ,春日部市では「地域社会における子育て支援サービスの充実」「母性,乳幼児等の健康の確保と増進」「学校と地域との連携による教育力の向上」「子育てを支援する安全・安心な生活環境の整備」の4項目を目標に掲げ,「子育て支援ネットワーク」の形成を中心とする200近い施策を盛り込んだ計画を発表した。

 一つ目に,保育サービスの向上施策を取り上げて見たい。市内には公立8ヶ所,私立9ヶ所の保育所が設けられているが,公立私立とも定員を大きく超えているのが現状である。また休日・夜間保育を行なっている保育所はなく,共稼ぎや母子家庭に大きな負担が強いられている。計画では定員の弾力化による受け入れの拡大,午後7時までの延長保育の拡充や,一時預かり,乳幼児子育て相談,さらに幼稚園の空き教室を利用した乳幼児の保育事業などが掲げられている。しかし,ニーズの高い休日保育事業は新規に1ヶ所のみ行われるだけである。特に公立の保育サービスの時間延長の動きは鈍く,公務員の勤務体系そのものを根本的に変えていかなくては,利用者のニーズを満たすまでに至らないであろう。

 また,児童虐待防止対策として,パンフレットや講演による啓発や教育相談窓口の設置,助産士による子育て支援講座などが謳われている。しかし,その受入先となる児童相談所との実質的な連携は計画に入っていない。警察や教育機関との協力体制の構築が不可欠と指摘しているが,口当たりのよい宣伝文句だけで,市役所がリーダーシップをとった施策は全く省かれている。昨今,親権者による虐待事件がマスコミを賑わすが,啓発と相談体制の充実だけでは,画餅に終始してしまう。さらに一歩踏み込んだ取り組みを期待したい。

 最後に,少年犯罪の増加や核家族化が進む中,高齢者と児童が交流することで,人とのふれあいが育まれると喧伝する「昔の遊び教室」を検討したい。何ともアイデアのないお役所的な発想であり,2つの公民館で実施されているが,ほとんど参加者もいないのが現状である。長続きする世代間交流は,様々な年代の人が集まって,学び教えあう生産的な活動である。地元の野球チームや剣道会などでは,親子3代にわたった活動も珍しくない。無理に交流を仕立て上げるような机上の発想を捨て,地域のスポーツ団体や武道団体,各種サークルなど民間の活動を促すための補助金や施設開放を優先したい。

 参考文献
 春日部市役所「春日部市次世代育成支援行動計画」2005