月別アーカイブ: 2007年10月

『WTO:世界貿易のゆくえと日本の選択』

村上直久『WTO:世界貿易のゆくえと日本の選択』(平凡社新書 2001)を読む。
著者は、基本的に自由貿易体制を擁護しており、グローバル経済の進展が、世界の貧困を減らし、限りある農産物の効率的活用や雇用の安定、引いては環境保全や世界平和に寄与するものだとするWTOの公式見解に賛同する者である。「自由貿易はそれ自体では人々に福祉の増大をもたらすことはない。それはまた、多国籍企業を富ませ、地球環境を破壊するだけでもない。競争を促進し、所得格差を狭め、何百万人もの人々にチャンスを与える」と指摘した英エコノミスト誌の論文を参照しながら、著者は自由で円滑な貿易体制の恩恵を受け、経済成長することこそが貧困から脱出する道だと断じる。

しかし、著者はこうした自由貿易の枠組みに対して一番わがままなのが米国であると指摘する。一般にWTOは米国の自由競争市場主義を世界に敷延するための仕組みだと考えがちである。しかし、開発途上国には例外なき市場の開放を迫る一方で、米国やヨーロッパ、そして日本も国内の産業や農業を守るための保護主義に傾きがちであるのが内実のようだ。米国・EU・東アジアなどの先進国を中心とした排外的な貿易圏でブロック化するのではなく、世界の150カ国に開かれた公正で透明なルールで運営されるWTOの管轄の下で貿易交渉を行なうべきだと著者は論じる。

GT−R

先日より東京モーターショウが開幕した。日産の新しいスカイラインGT−R(この代からスカイラインの名前はないそうだ)が目を引いた。一台700万近くするこのスポーツカーは、ホンダがNSRから手を引いた現在では、日産だけでなく日本を代表するスポーツカーである。男のロマンが枯渇する前に、30代のうちに一度はスポーツカーを乗り回してみたいものである。

GT-R

『日本経済は復活する!:トップリーダーたちの解答』

嶌信彦・榊原英資著、TBS報道局経済部編『日本経済は復活する!:トップリーダーたちの解答』(アスキーコミュニケーションズ 2003)を読む。
私の家には衛星放送がないので分からないが、BS-iというチャンネルで現在も放映している「榊原・嶌のグローバルナビ」という日本の経済界を代表する面々との対談番組の単行本である。経済報道の第一人者である嶌氏と「ミスター円」とも称された元大蔵省国際金融局長の榊原氏が、日本の経営者やエコノミスト33人に日本経済の当時のデフレ不況の分析やその打開策を尋ねている。
榊原氏の「僕はよく皮肉で、『アメリカン・イニシアティブ』という言葉を『アメリカン・イニシアティブ・ウィズ・ジャパニーズ・マネー』だって言うんですよ」という発言に示されるように、「失われた10年」での米国の経済復活がいかに日本のマネーに支えられてきたのという現実が、少しずつであるが巨視的に捉えることができるようになった気がする。
プラザ合意以降、米国自らがドルをばらまき、意図的なドル安政策を敷き、財政赤字、貿易赤字を演出する一方で、日本は一部の輸出産業を守るために、極端な円高に振れないよう米国債や米国証券市場を通じてドルを買い続け、80年代の加工貿易型の輸出産業立国のポジションにせっせと戻ろうとした。そのため、公定歩合をぎりぎりまで下げたにも関わらずマネーサプライが落ちてしまいデフレを招いた。そのデフレに不良債権や少子化まで重なって、いくら公共投資や減税をしても梨のつぶての構造不況をもたらした。そして、せっかくの円高のメリットを生かした消費構造改革を遅らせてしまった。日本の流出した為替差益が米国の覇権を支えているといっても過言ではない状況が生まれてしまったのである。

その中で三井物産戦略研究所所長の寺島氏の発言が印象に残った。教科書的な社民的言説であるが、ずばり核心を突いている。

私たちの先輩の経済学は、貧困だとか不平等だとか、そういう社会的価値の問題に正面きって取り組んできたじゃないのかと。もう少し、そういう問題意識を取り戻そうよというのが私の問題意識。その前提にあるのが、アメリカ経済学批判−金融肥大型、マネーゲーム型のアメリカ経済学批判なんです。
(中略)(ヨーロッパがグローバル資本主義を受け入れながらも、雇用の安定、環境の保全、福祉の充実という分配の構成のバランスを取ろうと模索している中で、日本は10年間アメリカ型モデルを追求してきた事実を踏まえて)中間層を育てていく資本主義。そういう機軸を持っていなければ、われわれは何のために資本主義というシステムにこだわってきたのかということになる。その機軸とは分配の機軸です。分配の機軸をどういう思想を持って見直していくか、小泉内閣は真剣に考えなければいけない。下手をすると、アメリカ流の市場原理主義という安直な方向に流れる可能性はあります。

私の家では、10数年前のモノラルの20インチテレビが大活躍であるが、2011年には衛星放送や地上デジタルに触れてみたいものである。

『理系発想で経済通になる本』

和田秀樹(日本実業出版社 2003)を読む。
「理系発想」というタイトルに魅かれて読んでみたが、目新しい中身はほとんどなく、投資家の心構えを大上段に説くといった内容である。高名な経済学者の理論を崇拝する=文系的発想ではなく、下記に彼が述べるように、仮説→実験→検証といった近代科学的手法で「生きた経済」を捉える=理系的発想が必要だと説明する。しかし、心理学を応用すれば経済が読めるようになると喧伝する割には具体的な手の内は隠されたままである。

心理学の理論というのは、それぞれが所詮仮説であって、実際にそれが使える理論であるかどうかは、患者に試してみたり、社会に試してみたりしないとわからないものだという結論に達したことだ。その際に、おそらくは経済学もそういうものなのだろうということを薄々感じた。心理学でも経済学でも、多くの理論があるが、どれが正しいかはやってみないとわからないし、アメリカであてはまることでも日本であてはまらないことがあるのだろう

『日本経済のことが面白いほどわかる本』

山下景秋『日本経済のことが面白いほどわかる本』(中経出版 2002)を読む。
今から5年前の本で、当時の「小泉−竹中」路線による財政構造改革をきわめて教科書的に検証している。株価の動向が日本経済にどのような形で影響を与え、そして公定歩合や為替にどうはね返っていくのか、いささか説明がくどい部分もあるが、高校生の読者にも分かりやすく解説している。
中学高校の社会の授業なんかだと、一国の経済が成長すると通貨の価値も高まり、輸入品が安くなると説明される。しかし、現在では先進国を中心に、意図的に通貨の価値を低くし貿易赤字が増やそうとする動きも出てくる。また、その辺りの株価や為替、地価の流れと政府、企業、消費者の入り組んだ関係が少し整理できたような気がする。