黒井尚志『Zをつくった男:片山豊とダットサンZの物語』(双葉社 2002)を読む。
米国でバカ売れするも日本ではあまりピンとこないフェアレディZの非運の歴史と、その企画から米国での販売網を築き上げるも日産本社から冷遇された片山豊氏の活躍を取り上げる。1969年発売の初代S30から2002年に復活した現行モデルに至るまでの歴史を、日産本社の浮き沈み、日米為替、米国でのモータースポーツのあり方など様々な視点から丹念に追っている。クルマそのものよりも、クルマにかける男たちの夢と現実との確執が興味深かった。
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『国語辞書事件簿』
石山茂利夫『国語辞書事件簿』(草思社 2004)を読む。
大槻文彦氏の手による「大言海」や松井簡治氏の『日本国語大辞典』などの戦前の辞書から「新明解国語辞典」や「大辞泉」といった戦後の辞書までの編集や発行の裏話が続く。後半は「広辞苑」の編者として有名な新村出氏の人柄に迫る。「広辞苑」の前身である同氏編纂の「辞苑」が先に刊行されていた辞書の全くの切り張りに過ぎず、しかも新村氏は名義を貸していただけだと辛辣に批判を加える。興味深い内容ではあったが、集中しにくい文章には辟易した。
『シュタイナー教育を学びたい人のために:シュタイナー教育研究入門』
筑波大学教育学系助教授教授吉田武男『シュタイナー教育を学びたい人のために:シュタイナー教育研究入門』(合同出版 1997)を読む。
「入門」と冠してあるが、シュタイナー自身がよく分からない人物なのに、専門用語ばっちり参考文献びっしりの学術論文であり、ほとんど読み飛ばしてしまった。
シュタイナー教育の実践の場である「自由ヴァルドルフ学校」で行われているエポック教育(時間割のないカリキュラム)や長期の学級担任制、点数評価の廃止などは、教育に携わるものとして参考にすべきものがあった。しかし、公教育の実態からはかけ離れており、永遠の理想に過ぎないか。
□ 吉田武男のホームページ □
『日本が挑む五つのフロンティア』
月尾嘉男『日本が挑む五つのフロンティア:ナノ、エコ、ゲノム、インナー、サイバー、新領域技術の驚愕』(光文社 2002)をさらっと読む。
タイトルが示す通り、日本が再生の道を図るには、無資源国で人口減少が進むこの国ではやはり科学技術分野を措いてないと筆者は述べる。そして日本は「サイバーフロンティア」「ナノフロンティア」「ゲノムフロンティア」「インナーフロンティア」そして「エコフロンティア」の五つの大きなフロンティアを軸に様々な行財政改革、教育改革、そして意識改革を進めていくべきだと結論付ける。
『生き地獄天国』
雨宮処凛『生き地獄天国:雨宮処凛自伝』(ちくま文庫 2007)を読む。
現在「週間金曜日」や赤旗、社会新報など多方面に寄稿する「ゴスロリ作家」雨宮さんのデビュー作である。彼女の中学校時代の壮絶ないじめ体験から始まり、高校時代の家出やビジュアル系バンドの追っかけの話、東京での浪人時代のリストカット、そして、バンド活動、右翼活動、サブカルイベントの主催など、次々の自分の活動のフィールドを広げてきた過去半生を振り返る。追っかけや右翼、宗教など、弱い自分の孤独を埋めるような熱狂するものに対する憧れや疑問、そして実際の体験を通して自分がどう変わったのか、雨宮さんは包み隠すことなく丁寧に語る。
柳美里さんのエッセーと似ているが、政治団体や宗教団体などの集団と個人の関係や、自身の経験からプレカリアートの問題を論じるなど、これからの多彩な活躍が期待される作家である。
私は世界がどこにあるのかわからなかった。私だけが世界の仲間外れだと思っていた。こんな世の中どうやってシラフで生きていけばいいのか、見当もつかなかった。
私はいかに手首を切らずに、そして今よりはマシな精神状態で生きていけるかってことを追求して、依存を繰り返していただけだ。そして、その果てに今、生まれて初めて「本当の自由」の中に放りだされている。
だけど別に、それはそんなに恐れるものじゃなかった。もしかしたら、私はずっとこんな状態を望んでいたのかもしれない。でも遠回りしなかったら、私の足は恐怖にすくんでいいただろうこともわかる。そう、思い切り遠回りして、そしてジタバタしまくれば道は開ける。そのことを、私は身体で覚えてしまった。
依存を繰り返して、私は世界の輪郭を掴むことができた。何もないここ、何もない自分から全速力で逃げようとして、時には自分を強く見せるために何かにすがって、どうにか一人で立てるようになった。
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