月別アーカイブ: 2018年7月

『超高速! 参勤交代』

土橋彰宏『超高速! 参勤交代』(講談社文庫 2015)を読む。
久しぶりに小説を心から楽しむことができた。
湯長谷藩(福島県いわき市)の藩主が江戸城の老中の策略により、たった5日間で家臣を従えつつ参勤交代を命じられることから話が始まる。途中剣や槍、弓の入り混じる戦闘場面あり、忍者活劇あり、ちょっとしたお色気もある、映画仕立ての作品であった。

5日間の参勤交代のエピソードはフィクションであるが、武芸に長じた湯長谷藩の4代藩主・政醇が吉宗にお目見えした史実に沿った内容となっている。幕藩体制という将軍と大名の封建的主従関係の中で、将軍に対する臣従を確認する役割を果たした参勤交代の持つ意味の重さは伝わってくる。

一応歴史小説であるが、平易な文体で書かれており、中学生でも数時間で読み終える作品となっている。また、東日本大震災後に書かれた作品で、原発を地方に押しつけてきた中央政府への疑問や郷土の土を汚した原発事故に対する批判も盛り込まれており、エンターテイメントの作品に込められた社会的な筆者の主張を読み解いていくのも面白い。

『SAQトレーニング:スポーツ』

日本SAQ協会監修『SAQトレーニング:スポーツ・パフォーマンスが劇的に向上する』(ベースボール・マガジン社 2007)を読む。
SAQとは基礎的なトレーニングの要素をスピード(Speed)、アジリティ(Agility)、クイックネス(Quickness)の3つに分類したそれぞれの頭文字である。

スピードとは、トップスピードを指し、陸上競技の100mのように直接的な動きの場面で発揮される。アジリティとは、敏捷性のことで、サッカーやバスケットボール、テニスなど、素早い方向転換や切り返し、左右や後方への早い移動を指す。クイックネスとは、素早さのことで、静止状態からの速い反応と動作を指し、野球の盗塁のように最初の数歩をいかに無駄なく、スムーズに加速をするかという動きのことである。

それぞれの項目について連続写真とDVD映像で分かりやすく説明されている。競技の前のアップもただ息を上げれば良いというものではなく、正しい目的とやり方があるということがきちんと理解できた。他にダイナミックストレッチや体幹トレーニングも紹介されており、運動競技の指導者の必読書と言っても良いだろう。

『コミック 徳川家康』

横山光輝『コミック 徳川家康』(講談社 1984)全23巻を読破した。
山岡荘八の原作を忠実に漫画化したもので、徳川家康の誕生から逝去までの苦難国難の歴史を丁寧に描く。何だかんだ読み終えるのに、3ヶ月近く掛かった。日本史の教科書にはあまり出てこない家康の家臣団や戦国武将のエピソードが興味深かった。服部半蔵や茶屋四郎じろう、
小牧長久手の戦いや大坂の陣など、教科書には原因と結果しか書かれていないが、歴史に残らないような数々の運や複雑な人間関係の上に成立した史実だということがわかった。タイトルにもなっている通り、「家康=正しく歴史進歩させた人」という視点に立っているので、今川氏や北条氏、石田三成などは「歴史的なミスを犯し、失敗した人」というレッテルを貼られてしまう。本書では、戦国時代の悲哀を味わい尽くした家康が徹底して武力を否定した平和を望んだ結果、元和偃武という大団円で終結するという流れになっているが、実際はどうなのだろうか? あくまで小説や漫画の世界なので、単純に楽しめれば良いのだが、歴史の見方の難しさの一端を感じた。おそらく正解は1つに絞られても解釈は無数にあるので、収拾がつかないであろう。
関ヶ原の合戦以降に、伊達政宗が登場するのだが、紙幅の都合なのか、突然表舞台に登場して、引っ掻き回すだけのピエロ役になっていたのが唯一心残りであった。