鎌田慧『トヨタと日産 自動車社会の闇』を読んだ。
トヨタの提唱する「カンバン方式」(Just In Time)というのは単に下請け業者にしわ寄せの行く物流の効率化だけでなく、工場と工場を結ぶ道路を整備する行政、そしてそこに働く労働者の徹底した生活管理まで含まれるものであることが分かった。豊田佐吉の名を冠した市名(豊田市・トヨタ町)への変更など地域を経済論理に統括していくこともカンバン方式の狙うところである。部品を組み立てるラインでは「省人化」が徹底され、ロボットの導入も労働者の作業軽減にはつながらず、一秒でもラインの流れを早めていくためのものだという現状が刻々と綴られていた。
労働が単純化、集約化していく中で労働が疎外されていく情況はマルクスの言うところであり、チャップリンの『モダンタイムス』に描かれているところであるが、読み進めていくうちにふつふつと沸いてくる怒りは確かなものである。その怒りを文学的に著したのが黒井千次ではないか。そう思い、黒井氏の『時間』(講談社文芸文庫)に集録されている『聖産業週間』と『穴と空』を読んだ。時間とノルマに縛られ断片化した作業に従事する労働者の崩れていく心理状況が的確に描出されている。『穴と空』は中年サラリーマンが仕事から心理的に逃避し、自宅の地下の穴をがむしゃらに掘り進めていくことで、ぎりぎりの状況に置かれた自分を再確認するという話だ。黒井氏は富士重工業に15年勤務していたので、労働の断片化についての批判的な視座は熟読に値する。