月別アーカイブ: 2011年9月

『ことばへの旅:第2集』

森本哲郎『ことばへの旅:第2集』(ダイヤモンド社 1974)を読む。

前集と同じく、芭蕉や啄木、カミュやシェイクスピアたちの名言を土台として、森本氏の人生のエッセンスが語られる。森本氏の哲学であろうか、瀟洒で多忙な生活よりも、質素で安寧な生活を選んだ偉人たちの言葉が選ばれることが多い。
芭蕉の「野分して盥に雨を聞く夜哉」の句を引いて、侘び寂びの心の豊かさを説き、エピクロスの「自由の最大の収穫は、自由である」の言葉を引いて、「足るを知る」という身の丈にあった生活こそが、精神的な自由が充足された快楽が得られると説く。

『ことばへの旅』

森本哲郎『ことばへの旅』(ダイヤモンド社 1973)を読む。

数年前に読んだ気もするが、もう一度読み返してみた。
古今東西15の名言の中から、森本氏が「私たちは、ことばの森の中で暮らしているのです。その果てしない森のなかで、すばらしいことばの木に出会ったときのよろこび そして、そのことばの木のなかに、イデア(本質)を発見したときの感動!」を掘り起こしている。
森本氏というと「旅」に関する著書が多いが、この本では、与謝蕪村(「門出づれば我も行人秋のくれ」)の章の中で、「旅」ついて次のように述べている。

なぜ人びとは旅へ誘われるのでしょう。それは、すっかり習慣になり、惰性になってしまっている機械的な毎日から抜け出したいためです。そんな毎日がやりきれないからなのです。
では、そのような日常の世界から抜け出して、いったい何を得たいと思うのでしょうか。むろん、ちがった世界を知りたいという好奇心は、だれにでもあるで しょう。しかし、ただそれだけではありません。じつは、自分を知りたいのです。旅に出ることによって、自分をみつめたいのです。自分をみつめることによっ て、人生の意味をつかみたいのです。「月日は百代の過客にして、行かふ年も又旅人なり」というその月日の意味をさぐりたいのです。こうして旅人の姿は、探 求者の姿にぴったりと重なります。

また、アーノルド・トインビーの「文明とは港ではなく航海である。そして、これまでのいかなる文明も港に達したことはなかった」の言葉に触れて、次のように述べる。

私 たちは、戦争さえ防ぎ得れば、平和さえ守れば、自分たちの社会は豊かになり、無限に発展していくような気になっています。けれど、はたしてそのような楽観 が許されるでしょうか。私たちが、その中に生きている文明は、モヘンジョ・ダロ(突如消え去ったインドの古代の文明都市)が黙示しているように、まことに こわれやすいものなのです。極度に敏感な有機体と言っていいかもしれません。ほんのちょっとの油断が、無意識の怠慢が、たちまち死をもたらすのです。私た ちが、げんに住んでいる都市文明にしても、けっして安全な“港”なのではなく、われわれもまた、“港のない航海”をつづけいているのです。

この本は40年近く前に書かれたものであるが、森本氏は私たちの文明を「極度に敏感な有機体」と命名し、放射能汚染に脅かされる日本の現在の姿を見事に言い当てているといっても過言ではない。

『ZOO』

乙一『ZOO』(集英社 2003)を読む。
数年前高校生に大ヒットした作品である。10編の短編が収められているが、どの作品も少ない紙幅の中でハッとするような展開があり、読み応えがあった。作品世界に読者を引き込むのが大変巧いので、短編小説なのだが、長編小説を読んでいるように物語世界にどっぷりと浸かってしまう。是非他の作品も読んでみたい。

「短編踏破で春樹文学に迫る」

本日の東京新聞の夕刊コラムに、文芸評論家の加藤典洋さんのインタビュー記事が掲載されていた。
新刊評論『村上春樹の短編を英語で読む』(講談社)にまつわる春樹文学への評価が述べられている。その中で加藤氏の評論家の姿勢に関する次の言葉が印象に残った。

 批評家と作家は会わない方がいい。作品が良くないときにはそう言わないといけない。
 相手に申し訳ないという気持ちを忘れてはいけない。だから批評として誠実な対応をしているつもりです。手抜きをしないでしっかりと、何遍も読む。作者から「こんなことは考えてない」と言われても、はかりに載せるとこちらの言葉とつり合わないといけない。
 批評は枠組みの中で考えるのではなく、新しい出来事にショックを受けて一回壊れ、今までの考えにも枠があったと気付かされる経験です。地図のないところからどういう枠組みを自分で提示していけるかが、問われていると思います。

特に、加藤氏の「相手に申し訳ないという気持ちを忘れてはいけない」という言葉が胸に響く。私も授業の中で、浅薄な知識を基に文学作品や作者についてしゃあしゃあと語っているが、果たして不遜な態度で向き合っていなかっただろうか。一つの作品を語る上で、その数倍の作品を読み、作者の経歴と時代状況を調べ、謙虚な姿勢で授業研究に勤しむ姿勢を加藤氏に倣って持ち続けていきたい。

『ピーコ伝』

ピーコこと杉浦克昭『ピーコ伝』(日経BP社 2001)を読む。
タレントかつファッション評論家で、おかまキャラでテレビで活躍するピーコさんと、コピーライター糸井重里氏の対談形式の本である。ピーコさんの生い立ちから、学生時代、デビュー前後、眼球摘出手術までの彼の半生をなぞりながら、双子の弟であるおすぎさんとのやり取りや、おかまを巡る社会のありようが語られる。
男と女の両方の視点を合わせ持っているためか、自己分析が良くできている。また性欲もないためか、大変ピュアな恋愛観の持ち主であることが分かった。