五木寛之『旅の終りに』(講談社文庫 1990)を十数年ぶりに読み返す。
「艶歌の竜」こと人情派音楽プロデューサー高円寺竜三と、合理に徹し巨大音楽ビジネスを仕切る黒沢正信の両者の対決を通して、日本人の演歌(民族性)に馳せる思いを描く。『艶歌』『海峡物語』に続く「艶歌3部作」の最終作である。短い作品ではあるが、韓国の歌い手のパワーや日韓問題、80年代的な管理と自由のせめぎ合いといった色々なテーマが盛り込まれている。しかし、当時80年代半ばの五木氏の他の作品―『風の王国』や『冬のひまわり』―とテーマが類似しており、中途半端な読後感は否めない。
月別アーカイブ: 2008年3月
『iPhone:衝撃のビジネスモデル』
『バンテージ・ポイント』
本日も、子どもをお風呂に入れてから、春日部のララガーデンへ出掛けた。
ピート・トラヴィス監督『バンテージ・ポイント』(2007 米)を観に行った。
何の予備知識もなしに、たまたま映画館に着いた時間ぴったりの作品をチョイスしたのであるが、なかなかどうして面白かった。群集の中での米国大統領の暗殺事件を、ビデオを巻き戻しするように何度も視点を換えながら描くチャレンジングな作品である。大統領が暗殺されるまでの20分ほどの映像が何度も巻き戻るにつれて謎が深まっていく。そして一つの事件を8人の視点から捉える事で事件の核心に迫っていく。
活字の世界では似たような作品がある。しかし、スクリーンで同じシーン何度も間近に見ることで、観客も大統領暗殺の現場に居合わせた群集の一人として作品の世界に入っていくことができる。派手なCGや有名な俳優はあまりいないが、ぐいぐい観客を引きつけていく源は脚本にあるのでだろう。
□ 映画『バンテージ・ポイント』オフィシャルサイト □
『わが空手、日本への提言』
大山倍達『わが空手、日本への提言:1200万人の頂点に立つ総帥の警鐘!』(サンマーク出版 1991)を3分の2くらい読む。
かなり古い本だが、ふと思い立って本棚の奥から引っ張り出してみた。当時の極真空手についての技術的な話や、『空手バカ一代』で描かれる米国修業時代などの読者が一番に期待するような話は一切無い。バブル景気に浮かれていた90〜91年当時の日本の政府や社会に批判を投げ掛けながら、人間としての原点を鍛え上げる極真の意義を説くという内容である。
前半は極真空手の内弟子が住み込む若獅子寮のことや、空手を通じて謙虚さと感謝の心などを培うべきだとする人生訓の話だったので、すいすい読むことができた。しかし、後半は女性の社会進出はおかしい、女は厨房を守り、男は戦いに出て行くべきだとか、女性の婚前交渉が社会の腐敗を生みだすとか、また日本人の精神が米国のブルジョワ民主主義に洗脳されているとか、果ては日本は立憲君主国であるから天皇には万世にわたってわが国の元首であっていただかねばならないなど、ぶっ飛んだ政治談義が続く。ちょうど1980年代チックな、笹川良一や「勝共連合」あたりの右翼・神道思想の四方山話である。あまりにつまらないので途中で読むのを止めてしまった。
大山氏は精神修行や基本、身体力の向上を重んじ空手家としては尊敬に価する人物である。しかし、この本は頂けない。
途中大山氏ならではの面白い話があった。下記のような名(迷)言こそが大山氏の持ち味の一つであろう。
たとえば具体的に言えば、いまいちばん社会の罪を犯しているもののひとつが、右から左へ行くスポーツ、つまり横運動を重視するスポーツを助長するような風潮だ。これに冠をかぶせて応援しているのが企業やマスコミ、そして日本政府である。具体的にあげればゴルフ、テニス、卓球といった球技の類がそうだ。野球も基本的には大差ない。