月別アーカイブ: 2005年4月

『ナイチンゲール』

長島伸一『ナイチンゲール』(岩波ジュニア新書 1993)を読む。
小学校時代に読んだ学研漫画を思い出すに、ナイチンゲールというと夜中に兵士にやさしく声をかける天使のような看護婦のイメージしか私にはなかった。しかし、実際のナイチンゲールは心優しい看護師というよりも、社会における看護師の地位向上、医師との分業体制を確立しようと近代看護学の先駆者と称されるべきであろう。彼女はそのために統計学を駆使し、英国陸軍の編成上の問題やインドにおける英軍のありかたについても意見を述べている。天使のような看護師という一面的な見方だけでは彼女に対する評価を誤ってしまう。彼女は自著『看護婦覚え書き』の中で次のように述べている。

女性にとっては神も国家も義務もなく、ただ家庭があるのみ。私は女子修道院をたくさん知っているが、そこではもちろん、けちな専制政治が行われているとみんなが噂している。しかし私は、イギリスの上流階級で行われている圧制ほど醜いものを知らない。

私が(イギリス国教会の)福音主義派に不満を感ずるのは、彼らが「家庭」の婦女子にたいして押しつけてきた要求……つまりかれらが捏造してきた偶像だ。……こうした矛盾は上流階級の生活だけに見られる。そのひとつの理由は、上流階級には下層階級よりもはるかに「ことなかれ主義」が横行しているからである。

『もっと知ろうアジア』

陸培春(ルペイチュン)『もっと知ろうアジア』(岩波ジュニア新書 1995)を読む。
著者の陸氏は、母国日本を愛するあまりに、第二次大戦中の日本軍の虐殺行為とそれを風化させようとする戦後の日本人ありように疑問を呈する。自衛隊を増兵し「国際貢献」に邁進することよりも、留学生の受け入れや国籍条項など国民の日常生活における国境の垣根を壊していく草の根レベルの交流こそが日本に求められる平和維持活動だと述べる。

『全人教育論』

小原國芳『全人教育論』(玉川大学出版部 1969、改訂版1997)を読む。
成城学園の主事として大正自由教育運動を担い、玉川学園を創設した小原氏の理想的な教育哲学と教育実践が述べられている。戦前の国家主義的な注入教育全盛の時代に、ペスタロッチ的な児童中心主義を貫いた教育思想を主張したことの意義は大きい。総合的な学習の時間や宗教に対する精神の涵養など現在の教育政策につながるようなことにも触れている。
しかし、彼の言うところの全人教育や宗教教育の中身の構造は見えてこなかった。ちょうど時代的に近いせいもあるが、太宰治が「富嶽百景」で述べた芸術論を思い起こさせる。大宰が芸術を調和の象徴である富士山に喩えたように、小原氏は教育の理想を児童の調和的発達に見出す。

永遠に未来永劫不変の教育とは、あらゆる正反対の二つの一つ一つを一つにした一つのみがそれだと思うのです。その中心が実に自我なのです。その自我を広く、高く、深く、清らかに育て上げねばなりませぬ。