月別アーカイブ: 2014年4月

『高千穂伝説殺人事件』

内田康夫『高千穂伝説殺人事件』(光文社文庫 2005)を読む。
1986年に刊行された本の文庫化である。宮崎県高千穂町を舞台に、戦後のどさくさで闇にまぎれた軍部のアヘンの行方を巡って、浅見光彦氏の推理が冴え渡る。
ここしばらく精神的に疲れる日が続いたので、何も考えずにすいすいと読むことができ。一時の気晴らしとして最高であった。

『交渉学』

中嶋洋介『交渉学』(講談社現代新書 2000)を読む。
交渉の現場における相手との駆け引きや交渉のプロセスやメカニズムについて分かりやすくまとめられている。
著者自身が㈱神戸製鋼所で企業や役所相手に積み重ねてきた交渉における経験則が土台となっている。
著者は交渉マネージメント能力として以下の10点を挙げている。

  1. リーダーシップ:場所の準備や交渉の進行作業など、できる限りこちらで準備した交渉手順やルールに従って交渉を進めていく能力。
  2. ポジショニング能力:交渉当事者間のパワーバランスを変化させる能力。交渉可能領域を作り出したり、相手よりも有利な立場に持っていく実務能力。
  3. 交渉シナリオ策定能力:交渉の最終目標に向けて計画的、組織的整合性をもって働く交渉のシナリオを策定する能力。
  4. 交渉力の効果的運用能力・交渉演出力:営業だけでなく、技術や経理、品質管理のメンバーにもそれぞれの役割を与えるなど、全ての交渉力を効果的に運用する能力。
  5. プレゼンテーション能力:交渉相手を論理的に説得する論理性や平易性、表現力や言語力。
  6. 状況対応能力:予想し得ない状況に対しても、その場で修正する知見や経験、推論力や集中力。
  7. 交渉人の能力:何日間も毎日同じ内容の主張を繰り返すといった、集中力や実行力。
  8. 交渉評価能力と決断力:交渉の全ての局面で相手の反応を的確に分析する冷静さやロジスティッック能力、分析力や決断力。
  9. 秘密保持と統制能力:自らの組織から漏れる秘密を保持するための情報コントロール。
  10. 文書化能力:トラブルを避けるために、交渉の経緯を確認するための覚え書きなどの文書化作業。

埼玉新聞一面より

本日の埼玉新聞一面に、今月埼玉県上尾市にある聖学院大学の学長に就任した姜尚中氏のインタビュー記事が掲載されていた。
大変示唆深いコメントがあったので、掲載してみたい。

姜氏は「埼玉の印象は」という記者の質問に対して次のように答えている。

県内でも、東京に近い所と離れた所で違いが大きいが、総じて東京の磁力が非常に強い。まるで(車輪の)スポークとハブのように、県内移動でも東京を経由した方が早い場合があるほど。東京の影響力が大きく、アイデンティティーが見失われやすい地域
やや飛躍するが、浦和レッズの件(差別的横断幕事件)も、「ジャパニーズオンリー」と書きたい気持ちの裏側には、埼玉という地域が固有のアイデンティティーを見いだし得ないもどかしさがあるのではなかろうか。

「地元」というアイディンティティーが壊れてしまった東京郊外において、一気にいびつな国家主義へと流れてしまう危険性が指摘されている。特に10代〜20代の若者はあらゆる場面において自己肯定感を与えていかないと、いわゆる「自分探しの旅」から巡り巡って偏狭なナショナリズムへと流れかねない。
ヘイトスピーチや四国での差別張り紙などの事件の記事を読むにつけて、若者のアイデンティティーを保障するような教育の必要性を感じる。先生との関係やクラスの友人、部活の先輩後輩関係、地域での年齢を超えた活動など、生徒の他者や社会、自己との「関係性」を育む教育を目指したい。

姜尚中氏は、「どんな大学を目指すか」という質問に対して、次のように答えている。

本大学の目玉の一つである人文学部の日本文化学科に「埼玉学」を開講するとともに市民講座も始める。埼玉にはさまざまな歴史、土地の記憶がうずもれており、急速に失われつつある。歴史、文化、芸術、国際関係など多様な視点から埼玉のアイディンティティーを掘り起こし、教育に反映させたい。

経産省前テントひろばMLより

「経産省前テントひろば」のメーリングリストより

本日の配信されたメーリングリストに興味深い記事が載っていたので引用してみたい。
以下は、元共産主義者同盟(ブント)叛旗派のリーダーである三上治(ペンネーム)氏の文章である。反原発運動に党派性を持ち込もうとする一部の勢力を批判し、「全共闘」的なノンセクト運動を模索している。過去の反原発運動における、「原水禁」と「原水協」の不毛な対立に振り回されてきた歴史を考えると、三上氏の指摘する「オール脱原発—反原発」運動を積極的に支持したいと思う。

テント日誌(4/19)より

 過日(4月15日)の朝日新聞は細川・小泉の二人の元総理が再度タッグを組んで脱原発に動きだすと報じていた。一般社団法人「一般エネルギー推進会議」を設立して政府のエネルギー政策や原発再稼動の動きに対抗して行くと報じていた。これは川内原発を突破口にした再稼動の動きに対するものでもあり。大飯原発再稼動時にはなかったことであり、おおきな力として期待されるものといって過言ではない。民主党の腰が定まらないだけでなく、前回の大飯原発再稼動時に彼らが推進側だったことを想起すればなおさらのことと思える。実際のところは彼らが動きやその力は未知数ではあるが、僕は積極的に彼らの行動を支援したいと思う。そして提携もして行きたいと思っている。彼らの力が大きな役割を果たすのなら、僕らが支援に回り、彼らの運動を支える側に立ってもいいと思っているのである。

 ここで想起されることがある。都知事選のことである。散発的にではあるが、その総括をめぐる議論も散見するが。やはり、いい機会だから彼らとの関係(提携)も含めた彼らの動きに対する議論をしておくべきだろうと思う。再稼動に反対運動が盛り上がり出した段階でまたつまらない批判を持ちだして運動を分裂させ、混乱させることなどを生まないためである。都知事選の総括と思われるものを見る時に、気になるのは宇都宮氏を支持した面々と見られる人の、細川氏を支持した側に対する批判である。一例をあげれば細川氏を支持し、候補の一本化を呼びかけた鎌田さん等への批判である。彼には根強い反共思想があるとか、彼の統一の呼び掛けがピントはずれのものであるとかなどがある、こうして批判を見ていて思うのは批判する側は一番重要なことが分かっていないか故意に無視しているように思えてならない。

 脱原発の運動と党派性(政治性)の問題である。僕は再三にわたって述べてきたが、脱原発―反原発運動における政治性(敵と味方の線引き)は従来の階級的―体制論的なものではだめで、そこから脱して左右の枠組みから出てなされなければならないと主張してきた。現今の脱原発—反原発運動には従来の政治的枠組みが残っていてそれが運動の広がりや発展を阻害している、と語ってきた。これは脱原発―反原発の運動には旧来の政治的立場を持ち込んではならないということの自覚だが、そこのところの重要性を隠蔽しているのだ。既得権利害(独占支配も含めた)に立つ推進派に対して、脱原発―反原発派はオールという立場に立たなければならないし、その可能性があるのにそれを妨害してはならない。オール沖縄という言葉がるが、オール脱原発―反原発という事を目指さなければならないし、そこでは細川—小泉の脱原発は信用できないとか、著名人を集めても仕方がないなんて言ってはならないのだ。運動の足を引っ張るしかない批判なんて一利もないのである。細川や小泉たちの動きについてはいろいろの評価があるのだと思う。それなら、今の段階でその議論を重ねておくべきだろうと思う。都知事選に関連させてもいいし、そうでなくてもいいが、再稼動時の運動に混乱をもたらさないために議論をしておくことは大切ではないか。僕もこの機会あればこの議論に付き合いたい。

 現在の脱原発―反原発の運動はこうした政治性(党派性)を克服して、オール脱原発—反原発ということに運動を広げて行く問題と、原発問題を僕らの原存在に関わるものとして思想的に深めていくべきことがある、この二つは僕らの現在的課題である。この一つは関門として細川や小泉の評価があるように思う。この点での議論を深めよう。(三上治)