宮本延春『オール1の落ちこぼれ,教師になる』(角川書店 2006)を読む。
タイトルの通り,中学校時代オール1の成績表をもらいながらも,見事難関国立大学に合格し,現在は教員として活躍する著者の半生記である。
著者は,中学卒業後見習い大工となり,18歳両親と死別し天涯孤独の身となったが,音楽と少林寺拳法に出会い,アインシュタインのビデオを見て感動したことで23歳で通信制高校に入学,そして,現在の妻の励ましもあって見事に「現役」で名古屋大学理学部に入学したというドラマのような波瀾万丈な人生を送ってきた。そして,大学院を終了後,現在は,数学の教員として母校の私立豊川高校の教壇に立っている。
日本酒を飲みながら読んだので途中の記憶が曖昧であるが,「新米」教師の熱い教育観がひしひしと伝わってくる。
月別アーカイブ: 2008年11月
パンフレット研究:麗澤大学
麗澤大学のパンフレットを読む。
千葉県柏市に位置し,外国語学部と経済学部の2学部からなる大学である。1959年に開学した中規模大学である。これまでさんざん見てきた,郊外型大学にありがちな,スポーツを売りした学科や資格取得支援プログラム,キレイな校舎などに頼ることなく,大学の理念や授業を前面に打ち出しており大変好印象である。教育課程もすっきりとしており,純粋に授業を楽しめそうだ。外国語学部は受験生が十分に集まっているが,経済学部は少々苦戦している。
1泊2日のオープンキャンパスがあるのが面白い。最近は駅伝に力を入れているようであるが,他の大学に見られる新興私立高校のような改革を突き進んでほしくはない。
『ゴーマニズム宣言:差別論スペシャル』
小林よしのり『ゴーマニズム宣言:差別論スペシャル』(解放出版社 1995)を読む。
全編同和問題についての漫画や対談で占められている。その中で著者小林氏は,部落解放同盟の代表との会談などを通じて,部落差別の実態を丁寧に描き,そして,自らの差別意識を明確に示した上で,同和問題の解決に向けた糸口を示している。
この当時の小林氏は,一漫画家として自分の立場を明らかにした上で,聖域無き表現の自由に挑んでおり共感が持てる。なぜこの頃のような挑戦者としてのスタイルを貫き通せなかったのだろうか。
『ジャパニーズ土人くん』を描いていいのかどうかという問題のちょうど逆のテーマもあります。例えば『裏天皇』というのを描きたいんです。熊沢天皇とかいたけど,そういう発想があるんですよ。『裏天皇』も描いていいのかどうか,これもその辺の問題を煮詰めていかないとやれないけど,これをやるとすごく面白いことが出てくるんですよ。ところがこれだって描けないでしょ。『ジャパニーズ土人くん』も描けなければ『裏天皇』だってやれないだろうという,この情況をなんとかせんといかんから,今『ゴー宣』をやってるんだってことですよね。
『リカ』
五十嵐貴久『リカ』(幻冬舎 2002)を読む。
久しぶりにソファに寝そべって朝方まで一気に読みふけってしまった。
インターネットの出会い系サイトで知り合った女性が,実は過去に殺人を犯していた病的な執念を持った人間であったという話である。中年の男ならば誰しもが経験するふとした浮気心が災いを生んでしまう。そして,ネットの掲示板やメール,携帯の伝言といった電子情報が,中年男性の実生活を恐怖に陥れていく展開についつい引き込まれてしまった。
『介護入門』
第131回芥川賞を受賞した,モブ・ノリオ『介護入門』(文藝春秋 2004)を読む。
改行のほとんどない文章で,「私」の心理描写が連綿と続き,小説というよりも日記文学に近い作品に仕上がっている。自分の生活の全てを犠牲にしてまで祖母の介護に尽くす精神的なストレスを抱え,大麻や音楽に溺れる昼夜逆転の生活の中から,徐々に介護をすることで30歳を過ぎた自分のアイデンティティを見つけようとする心模様が展開される。
著者モブ・ノリオ氏は製本された本としてはこの作品しか発表していないようだが,次作も是非読んでみたい。