月別アーカイブ: 2010年4月

『シャッターアイランド』

子ども二人をお風呂に入れ、春日部ララガーデンでマーティン・スコセッシ監督、レオナルド・ディカプリオ主演『シャッターアイランド』(2010 米)を観た。
前宣伝では、絶海に囲まれた孤島から逃げられないというミステリーやらトリックを強調していたが、実際は宣伝とは全く異なる内容であった。内容は良かったのに、宣伝に騙されたような気がして腑に落ちない。
展開としては数年前に観たM・ナイト・シャラマン監督『ヴィレッジ』に似ている。

『国家の品格』

藤原正彦『国家の品格』(新潮新書 2005)を読む。
300万部近く売れたベストセラーである。タイトルだけを目にした限りでは、ありがちな大局的視点から論じる右派的国家論なのかと思っていた。しかし、筆者は、行き過ぎた市場経済至上主義やアメリカ追随型の政治や社会に断固とした反対を唱え、日本古来の武士道や自然観、生命感に学ぶべきだと述べる。民主主義は衆愚政治であり、マスコミに左右される現在の政治を危惧し、日本人の繊細な美意識や教養を身につけた真のエリートが国家の暴走を抑制し、世界に冠たる模範となるべきだと結論づける。株主絶対主義や拝金主義的な風潮など、当時の小泉政権に代表される新自由主義に対して、明確にアンチを唱えている点は共感するところが多かった。

筆者の意見全部に賛成はできなかったが、筆者の強調する「品格」の要素である、食糧自給率の向上こそが日本の独立の存立基盤であるとか、国語力と計算力の徹底、自然に跪く謙虚な心などは是非とも大切にしたいと思った。

現代を荒廃に追い込んでいる自由と平等より、もののあわれなどの美しい情緒、武士道から来る慈愛、誠実、惻隠、名誉、卑怯を憎む、などの形など日本人固有のこららの情緒や形の方が上位にあることを、日本は世界に示さねばなりません。自由、平等、市場原理主義といった教養は、共産主義がそうであったように、いかにも立派そうな論理で着飾っていても、人間を本当に幸せにすることはできないからです。

『しまむら逆転発想のマニュアル:驚異の低価格・高利益のマジック商法』

溝上行伸『しまむら逆転発想のマニュアル:驚異の低価格・高利益のマジック商法』(ぱる出版 2001)を読む。
2009年2月現在、売り上げ3663億円、全国1123店舗を数えるファッションセンターしまむらの成長の秘訣が詳しく解説されている。
ユニクロやヨー カドーに比べ、しまむらというと、郊外にある主婦向けのダサいイメージがあった。しかし、その急成長の背景には、20代から40代の女性にターゲットを絞ったドミナント出店や徹底した中央コントロールによる単品管理、コンビニ以上の極めて緻密な物流システムの構築といった戦略がある。

ファーストリテイリングが展開するユニクロが、企画、開発、制作から販売まで一貫して手がけるSPA(製造小売業)業態をとっているのに対し、しまむらは 自社開発は一切せず、メーカーとの良好な関係を保つことで小売業に専念している。また、本部のPOSシステムによって全国1000店舗、4万にも及ぶ商品を全て単品管理しているとのこと。そして、全国6カ所にある物流センターと店舗間の配送だけでなく、中央システムの判断で、ある店舗で売れ残った商品を販売データから少しでも売れそうな店舗に順次回していく配送も行っている。パート社員の徹底した活用や緻密な業務マニュアルの作成など、店舗のイメージからは伺い知れない極めて合理的な経営戦略を持っていることが理解できた。

『人間、とりあえず主義』

なだいなだ『人間、とりあえず主義』(筑摩書房 2002)を読む。
精神科医と作家という二足の草鞋を履く作者の、雑誌「ちくま」に寄せられたエッセイがまとめられている。タイトルにある「とりあえず」主義とは、困難な問題や不測の事態に際して、あれこれと思い悩まず、そして、無理にベストを尽くそうとせず、とりあえず次善の策を施し、気持ちや判断、行動にあそび(余裕) を持たせながら生きるという人生訓である。
作者は、「とりあえず」主義の立場に依拠して、横車をごり押ししようとする政治や人道を無視して突っ走ってしまうマスコミや社会のあり方に疑問を発している。

『遮光』

野間文芸新人賞受賞作、中村文則『遮光』(新潮社 2004)を読む。
愛する彼女を突然の事故で失い、その現実から逃れるため、虚言や妄想の世界に埋没していく男の破綻していく日常生活を描く。
昨年読んだ同じ作者の『土の中の子供』と同様に、三島由紀夫の『金閣寺』や太宰の『人間失格』の後半部分のような、いかにも純文学風な仕立てとなっている。読者をかなり選ぶ作風であろう。しかし、作者の才能の片鱗を感じさせる作品である。