勝山海百合『玉工乙女』(早川書房 2010)を読む。
中国・清の時代を舞台に、印鑑に施す彫鈕をテーマとしたファンタジー小説である。
康熙帝時代の彫鈕の大家とも言われる周林尚均が登場したり、阿片や纏足などの史実も踏まえられ、歴史小説のような趣の作品であった。
当時の世界観の描写に一目置くものがあったのだが、最後は紙幅の都合なのか、突然打ち切りになったような終わり方になったのが残念であった。
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『自転車と旅しよう!』
倉松公園
『ナショナリズムをとことん考えてみたら』
春香クリスティーン『ナショナリズムをとことん考えてみたら』(PHP新書 2015)を読む。
先日の東京新聞でのコラムを目にして、彼女の素直な感性が気になって注文してみた。
一水会の鈴木邦男氏、朝生の田原総一朗氏、経済評論家の三橋貴明氏らとの対談を通して、自身のブログのコメントが大荒れした背景について考察を加えていく。ネトウヨの実情に始まり、ネトウヨと右翼の違い、左翼と右翼の逆転、さらには「グローバル化」の視点から見る右翼と左翼の相違、「イスラム国」と移民に対するナショナリズムの動きなど、章が進むごとに彼女の考えがどんどん深くなっていくのが分かる。
国会とは別の「現場」に行くこともあります。オフを利用して、日帰りで沖縄を訪ねたりするのです。仕事でもなんでもありません。完全にプライベートで、もちろんマネージャーも連れずに飛行機に乗って、米軍の普天間基地や嘉手納基地や辺野古などの様子をみてきました。
観光もせずに、基地だけを回って、丸一日使う二十三歳などいないかもしれません。ネットを使えば、その数分の一の時間でかなりの情報を手に入れることができるでしょう。
でも実際に行ってみないと、言葉ではうまく伝えられない現地の状況を肌感覚で理解することはできません。もちろん、安全保障や基地の問題は理詰めで議論しなければいけませんが、それだけでは解決しない部分もあると思います。
現地の空気や匂いのようなものをわからずに、ロジックだけで語っても、何か大事なことを脇に置いてきてしまう。それでは結局その議論自体に説得力は生まれないし、現地の人たちにとっても、部外者が議論している、という以上の印象を与えることはできないのではないでしょうか。
特に目新しい内容ではないのだが、自分自身の言葉で書かれているので、ストレートに伝わってくる文章である。
また、経済評論家の三橋氏のコメントが気になった。
フランスでも、昔は移民制限なんて口に出せる話ではありませんでした。そんなことをいえば「差別主義者」のレッテルを貼られて、メディアからも叩かれるに決まっていますからね。ところが移民制限を主張する国民戦線が世論の支持を得るようになると、メディアの論調も変わってきた。最近は国民戦線ではない政治家も、当たり前のように移民制限を口にしますよ。そちらのほうが国民にウケるからです。
なぜそうなるのかといえば、それが普通の人間的な感情だからでしょう。外国人の数が少ないうちは平気で受け入れられても、あまりにその数が増えて国中に住み着き、まるで別の国のような状況になっていくのを経験すると、「これはよくない」と思っても不思議ではない。それを人種差別、民族差別といった話と同類にすべきではないと思います
この本は昨年の2月に刊行されている。まだトランプ米大統領の誕生が信じられなかった頃の話である。日本では差別主義者のトランプ氏が大統領になるなんてという報道が続いたが、「愛国主義イコール排外主義」と一緒くたにしてしまう日本のメディアの抱えるスタンスが問題であると三橋氏は指摘する。鋭い批判である。