手塚治虫『鉄腕アトム別巻②』(秋田書店 2000)を読む。
先日読んだ、大人向けのやさぐれたアトムなどが登場する『別巻①』とは異なり、雑誌「小学二年生」に連載されたもので、一見変わった不思議なロボットたちが登場する子ども向けの内容となっている。少々ガッカリしながらページを捲っていった。「月刊少年ジャンプ」に掲載された、自然を破壊する人間と人間を最後まで信じようとするアトムの姿を描いた『シルバー・タワー』という作品が、唯一青年向けの内容であり興味を引いた。
月別アーカイブ: 2016年9月
『ルポ 貧困大国アメリカⅡ』
堤未果『ルポ 貧困大国アメリカⅡ』(岩波新書 2010)を読む。
オバマ大統領の就任前後のアメリカに巣食う、高額な学資ローン、社会保障の崩壊、医療保険、刑務所の過度な民営化について、丁寧に現地の人からの声をまとめあげたルポルタージュとなっている。
奨学金という名の学資ロンーンや、保証ばっちりの太鼓判の押された社会保障の崩壊など、日本の現状に近いものがあるが、刑務所の囚人を低賃金で派遣し、莫大な利益を得る全米矯正施設会社の実情は少し怖かった。日本でも刑務所の民営化による労働不足の確保が議論されるのであろうか。
エピローグが映画音楽ののようにまとまっていたので、いささか長くなるがそのまま紹介したい。
医療破産したある女性は、取材のなかで私に言った。
「一番こわいものはテロリストでも大不況でもなく、いつの間にか私たちがいろいろなことに疑問を持つのをやめ、気づいた時には声すら自由に出せない社会が作られてしまうことの方かもしれません」
いま私たちが直面している、教育に医療、高齢化に少子化、格差と貧困、そして戦争といった問題を突き詰めてゆくと、戦争の継続を望む軍産複合体を筆頭に、学資ローンビジネス、労働組合や医産複合体、刑産複合体など、政府と手を結ぶことで利権を拡大させるさまざまな利益団体の存在が浮かび上がってくる。世界を飲みこもうとしているのは、「キャピタリズム(資本主義)」よりむしろ、「コーポラティズム(政府と企業の癒着主義)」の方だろう。
莫大な資金が投入される洗練されたマーケティング。デジタル化するメディアがそれを後押しする時、そこから身を守るために私たちには何ができるのか?
今回取材を通して出会ったたくさんのアメリカ市民が、そのヒントをくれたように思う。
大きな力に翻弄される政局のなか、党派にかかわらず勇気をもっておかしいと声を上げ続ける議員たちや、期待と逆行する現実に失望するリベラル派に連携を呼びかける保守派の人々。敵対していた親たちに向かって、子どもたちのためにもう一度同じものを目指そうと手を差し出す教師たち、体を張って無償治療を提供しながら、いのちの商品化を止めようと議会にのりこんでゆく医師団、どうせ裏切られるのだと距離を置いてきた政治の世界に、自ら参加し始めた若者たち。情報の洪水のなか、手つかずの真実を届けようと体を張るジャーナリストやNGO。リーダーを動かすために自分たちが変わろうという意志のもとで新たに生まれたスローガン、「オバマを動かせ(Move Obama)」。
大統領候補の一人だったラルフ・ネーダーは、なぜ当選の見込みが薄いのにくり返し立候補するのかという私の問いに、こう答えた。
「国は一、二度の政権交代では変わらない。国民の判断で、その洗礼をくり返し受けることで初めて、政治も社会も成熟してゆくのです。本当の絶望は、国民が声をあげなくなった時にやってくる。そうならないための選択肢を差し出すために、私は出馬し続けるのです」
大統領の肌の色ではなく、ごく普通の人々の意識のなかにもたらされたチェンジが、貧困大国アメリカの未来を、微かに照らし始めている。
民主主義は仕組みではなく、人なのだ。
『自動車伝来物語』
中部博『自動車伝来物語』(集英社 1992)を読む。
『週間プレイボーイ』に連載されたもので、明治期に日本に初めて入ってきた自動車の正体を探るというルポルタージュである。
本論とはあまり関係ないのだが、著者がサンフランシスコに渡り、図書館に保管されていた1890年代末の日本語新聞を調査する中で、当時の日本人の置かれた状況が興味深かった。
カリフォルニア州において共和党がとった選挙戦略のひとつはアジア人排斥、おもに日本人排斥運動出会った。中国人移民労働者のアメリカ入国は法律で厳しく制限されていたから、アジア人排斥運動の矢はいきおい日本人に向けられた。
この戦略はきわめて単純な政治状況を作ることで、浮動票を共和党が獲得しようというものだった。つまり増加しつつあるアジア人移民労働者にアメリカ人労働者の仕事が奪われている、このままではアメリカ市民の失業率が高くなる、したがって増加し続けている日本人を排斥する法律をつくる必要がある、という運動方針だ。人種問題とアメリカ人労働者の生活を巧みに組み合わせた政治テーマである。どんな時代でも、いかなる国でも、愚かな政治家は、有権者の人気を得ようとして人種差別をするものだ。
『バイシクル・ガール』
チャリジェンヌ『バイシクル・ガール:自転車でもっとキレイ! もっとハッピー!』(2010 PHP研究所)を読む。
自転車の選び方に始まり、自転車の種類や乗り方に始まり、ダイエット、ファッション、簡単な整備方法、交通ルール、輪行旅まで、自転車の魅力がコンパクトに紹介されている。
女性向けの入門書であるが、なかなかポイントが上手くまとまっている。
スポーツ自転車では「サドルは座るものではない」と思ってみてください。正しく走っている場合、体重のほとんどは常に脚にかかります。ペダルを漕いでいるときは両脚に、漕ぐのをやめて惰性で走るときは、下ろしている方の脚に体重の大半を乗せ、お尻は常にサドルに軽く乗っている程度に保ちます。
舗装の繋ぎ目などでは、さらにお尻を浮かせ、ショックを受けないようにします。しばらく乗っていると脚力も付いてきて、痛まなくなることが多いようです。
それでもお尻、とくに前の方が痛む場合は、姿勢のチェックを。腹筋がゆるんで背中が反ると、骨盤が前傾して前に荷重がかかってしまいます。お腹をパンチされたように、あるいはボールを抱えるように腹筋を引き締めることを心がけてみて。
さらに、対談の中で、チャリジェンヌメンバーの一人である絹代さんの「(自転車に乗ると、)旅が『伸縮自在』になる感じが本当にいいなぁって」という言葉が印象に残った。確かにゆっくりと街めぐりしたり、裏道を抜けたりと「伸縮自在」である。なかなか乙な表現である。
人生初のロードレース
本日、雨模様の中、千葉県成田市の下総運動公園で行われた「秋のしもふさクリテ」という自転車レースの大会に親子3人で参加した。
50人弱が一緒にスタートし、計測器を付けてマトリックスプロチームの選手の後に続いて、カウントダウンで走り出すという本格的なものであった。初心者向けのたった7.5キロのコースであったが、最後は周回遅れにならないよう必死であった。
結果は散々であった。しかし、寝不足の中での初めての参加で、子供の面倒を見るため試走もアップもままならなかったという事情を考慮すれば、DNFにならず完走できたのは良かった。心地よい汗をかくことができた。子供の方も落車して怪我でもしやしないかとハラハラであったが、笑顔で完走していた。
次こそ挽回したい。