佐々木忠義編『海と人間:ジュニアのための海洋学』(岩波ジュニア新書 1981)を読む。
著者は海洋物理学の専門家で、東京水産大学(現東京海洋大学)の学長も務めた人物である。海の様々な定義や特徴に始まり、海の生物や海底資源、プレートテクトニクスまで、中高生に分かりやすく海洋学の基本がまとめられている。大変バランスの良い編集となっている。
勉強になった点を書き出しておきたい。
世界の海の深さの平均値は、およそ3800メートルで、陸の高さの平均値は840メートルである。
海中では深さが10メートルますごとに水圧はおよそ1気圧ずつ高くなる。したがって、1万メートルの深さでの水圧は、およそ1000気圧にもなる。つまり、深さ1万メートルの深海では、海底の1平方センチメートルの上にのしかかっている海水の重さは、およそ1トンもある。
7月を見ると、(中略)北緯30度線では、気温、表層水のおんどにはほとんど差がなくなり、それより北緯50度線までは、気温が1度ばかり水温より高くなっている。(中略)
一年にわたってながめると、日本に近い太平洋の北西部の海では、5月にはじまって8月までの間は気温が海水温度より1.0度ほど高く、9、10、11は海水に比べて気温が低くないr、1月に最低になって、その状態が4月までつづいている。海洋の気温が水の温度を超える期間は短く、またそのこえ方は小さい。秋から翌春までの1年の3分の2の期間は、反対に気温の方が7.0度も低くなる。
海洋気候の特徴は、海の影響を受けて、気温の変化が小さいこと、雨が多いこと、である。
大陸気候は反対に、気温の変化が大きいことと、雨がすくなく、乾燥ぎみであることが特徴で、海から遠い大陸内部では、この傾向がいちじるしい。大陸の表面をおおっている土や岩石は、水よりも暖まりやすく冷めやすい。1立法センチの土・岩石と水を1カロリーの熱で暖めたとすれば、水の温度は1度高くなるが、土や岩石は、その種類によってすこしちがうが、2度くらい高くなる。
海洋気候では、大陸気候にくらべて最高気温があらわれる月がおくれることが多い。海がなかなか暖まらないことがきいているのである。タシケントとモスクワでは、7月の気温がもっとも高いが、海に近いほかの都市では、1ヶ月から2ヶ月おくれた8月か9月の気温がもっとも高くなっている。
この冷たい乾燥した空気が、日本海の上を通るとき、海面から水蒸気を吸い上げる。水蒸気は雪となって裏日本に降りつもる。風が日本海を横切る時間が長ければ長いほどたっぷりと水蒸気を吸い上げるから、そして風は北西から南東に向かって吹くから、秋田県、新潟県、福井県のあたりで雪が多くなる。
北海道の、とくに北部で雪が案外すくない理由の一つもこれで、風はシベリア大陸をはなれると、水蒸気を吸い上げる時間もなく、すぐに北海道に届いてしまう。
北日本の魚の南限は、太平洋側では千葉県犬吠埼あたりで、サケ、ニシンなど寒海の魚はここまで南下できる。ここがまた、熱帯性や亜熱帯性の魚の分布の北限になっている。
海底には2億年より古い岩石はない。(中略)海の底が広がっていく速度もわかっている。東太平洋海嶺から日本列島までの距離は、約1万4000キロメートルである。ところで大洋底には2億年より古い岩石はない。たいへん荒っぽい仮定だけれど、海底が東太平洋海嶺でつくられてから次第に拡大し、ついには日本の下に潜り込むまでに2億年かかったとしよう。
つまり、1万4000キロメートルの距離を2億年かかったとすると、その速さは1年あたり7センチメートルということになる。じつはこの値は、そう不正確な値ではない。