月別アーカイブ: 2014年8月

『宋姉妹』

伊藤純・伊藤真『宋姉妹:中国を支配した華麗なる一族』(角川文庫 1995)を読む。
夏の最後を飾るに相応しい一冊であった。
孫文の妻で、その後、中華人民共和国名誉国家主席となった宋慶齢と、蒋介石の妻で、台湾の中華民国総統夫人になり、2003年に米国でなくなった宋美齢の二人の姉妹を中心に、「宋王朝」と呼ばれた家族の生き様が戦前戦後を通して描かれる。
戦前の国共合作や西安事件の裏話や、米国の中国外交の対応、国共内戦と国際政治など、昨日の深夜に読んだ現代中国史の部分を補って余りある内容であった。中国史を学ぶ高校生に是非薦めたい本である。

『この一冊で「中国の歴史」が分かる!』

山口修『この一冊で「中国の歴史」が分かる!』(三笠書房 1996)を読む。
元は山川出版社から刊行されていた単行本が文庫化されたものである。
現在深夜3時を回っている。4時間近くかけて、地図を片手に一気に読んだ。
仰韶文化・竜山文化の古代中国文明から秦漢の統一、「三国志」、南北朝時代、隋唐の統一、宋朝、元朝、明朝、清帝国、西欧列強との戦争、中華民国、中華人民共和国まで7000年近くの時代を一気に概観したことになる。教科書に近い読みやすい文体で、裏話も豊富に掲載されており、中国史の入門書としてはうってつけの一冊である。現在でも体裁を変えつつ版を重ねているようだ。
20年前の受験のときに懸命に覚えて以来全く目にしていなかった、明朝末期の「一条鞭法」や「鄭和の大遠征」、康煕帝と乾隆帝に挟まれた「雍正帝」などの単語に懐かしさを感じた。

また、1920〜40年代の国民政府と共産党の内戦であるが、高校時代や浪人時代に勉強したときは「内戦」という言葉が示すように、中国人同士の方針の違いから生じる衝突だと思い込んでいた。しかし、日本の敗戦前から、蒋介石率いる国民政府軍には米軍の兵器が供給されており、ソ連軍が後押しする共産党との代理戦争という側面があったのだ。1970年代、80年代のアフガニスタン紛争と同じ構造の戦争がすでに始まっていたのである。アヘン戦争以降のヨーロッパの帝国主義国家と清朝時代の中国の対立に日本が食い込んで泥沼化したという表面的な見方だけでなく、真珠湾攻撃のかなり前から米国の思惑が深く絡まっており、水面下で冷戦構造が早い段階から形作られてきた点を見逃してはならない。

大凧花火大会

 

今夜、家族を連れて旧庄和町の花火大会へ出かけた。
昨年と同じ場所の、龍Q館の近くの小高い公園から眺めた。
妻と一年前と比べて子どもがどれだけ成長したかについて話しながら楽しんだ。

『マンガ 聖書物語〈新約編〉』

樋口雅一『マンガ 聖書物語〈新約編〉』(講談社+α文庫 1998)を読む。
イエス・キリストの誕生から、十字架の磔刑までと、復活してからの使徒の活躍、パウロのローマ到達までが一冊のマンガ文庫に収められている。
パウロの伝道の旅を地図で確認しながら読んだ。イスラエルやシリア、ギリシャ国内は当時の地名の名残が残っているが、トルコ国内では全く別の地名となっており、伝道の道筋を辿るのに少し戸惑った。

私の知識だと、キリスト教とローマ帝国は水と油であり、ローマ帝国はキリスト教の拡大を徹底して迫害したというイメージが強かった。キリスト教はローマ帝国の執拗な弾圧から逃れながら、庶民に浸透していった宗教であり、その点から、勝手に小林多喜二の『党生活者』のような、コミンテルン時代の共産主義と似たイメージを持っていた。しかし、イエス・キリストや使徒たちの裁判の様子を読んでいるうちに、キリスト教は時の政府を打倒することのみを目的としておらず、当時、ギリシャや西アジア、北アフリカ全域を支配していたローマ帝国の威光を背景にして伸張していったことが分かった。パウロ自身もローマ市民権を武器にして鞭打ちに刑の不当性を訴えている。
また、キリスト教は、誕生当時から外国人への伝道についての議論があり、生まれながらにして国際性を持っていたということが理解できた。

『時代屋の女房』

第87回直木賞受賞作、村松友視『時代屋の女房』(角川書店 1982)を読む。
大井町の駅前の小さい古道具屋「時代屋」を舞台にした人間ドラマである。内縁の女房が4度目の家出をしてしまい、一人残された古道具の中年の主人を巡る商店街の人たちとのささやかな交流が描かれる。印象に残る風景描写であったが、何が面白いのかあまり理解できなかった。

なお、同作品の他、同じく前年に直木賞候補になった『泪橋』も収録されている。こちらの方が何倍も面白かった。ひょんなことからホストになり、暴力団から追われ、江戸時代に存在した鈴ヶ森刑場へと続く涙橋(現:大田区立会川にある浜川橋)の商店街の一角で匿まわれ、1ヶ月後にこっそり姿を消し行方を眩ませた主人公の男性が、10年ぶりに涙橋に帰ってところから物語が始まる。契約社員という立場ながら、内縁関係の妻とのマイホームや子どもの誕生といった新しいステージに向かっていかざるを得ない「不安」や、10年前に居た土地を巡りつつ自分の本来の姿を探そうとする「希望」が巧みに描かれていた。また、スマホのGooglemapを片手に、旧東海道や鈴ヶ森刑場跡地の大経寺の場所を確認しながら読んだ。地図を見ながら、旧街道沿いの風景を想像する楽しみも味わうことができた。
こちらの作品の方が直木賞に相応しかったのでは?