月別アーカイブ: 2009年6月

「外国人学校支援法」の法案提出

本日の東京新聞朝刊に、今国会での「外国人学校支援法」の法案提出が大詰めを迎えているという記事が載っていた。

この法案は、公的助成を可能にするため、ブラジル人学校など無認可の外国人学校を各種学校に設定するという内容だ。自民・公明両党の議員連盟が中心となってまとめられており、当事者たちの間でも「日本で外国人学校を正規の学校として位置付けよう」という動きも活発化してきている。
法案では、各種学校の認可基準を大幅に緩和し、外国人学校を各種学校として認可し、公的助成を可能とするものである。外国人労働者の子どもたちが増えてきている日本の現状を鑑みるに遅すぎるぐらいの対応である。しかし、公金や公財産は「公の支配」にない事業に支出できないと定めた憲法89条に抵触するおそれがあり、法案成立は一筋縄ではいかない。

国会の議員連盟とは別に、当事者の学校関係者や保護者らが考えた新たな外国人学校支援制度の概要が都内で開かれたシンポジウムで発表された。その内容は、教育基本法に外国籍の子どもの教育を受ける権利と、その権利を国や自治体が保障する義務を明記。さらに、①学校教育法上に「外国人学校」のカテゴリーを加えて正規の学校扱いにする②「外国人学校振興法」を制定し、外国人学校の認可校には助成金や受験資格、寄付金税制などで日本の学校と同じ扱いにするとしている。

与党議員は学校教育法一条校として認可はせず、あくまで各種学校として認可し助成を試みるものである。これでも現状よりは大きな前進である。しかし、認可されても助成金は公立校の十分の一程度にしかならない。しかし、シンポジウムでの「外国人学校」の整備では、日本人のための学校とは別の学校の設立を目指すというものであり、新たな排除構造が生まれる可能性が危惧される。

与党の議員連盟の法案に寄付金税制や助成金を大幅に上乗せした形で修正を迫る一方で、公立学校での外国人の制度的、経済的な大胆な支援策が求められる。

『漢方小説』

第28回すばる文学賞受賞作、中島たい子『漢方小説』(集英社文庫 2008)を読む。
前厄間近の31歳の独身女性が、男性や仕事にふられたことをきっかけに体の調子を崩していく。しかし漢方治療をきっかけに、心身全てバランスを整えていくことの大切さを知り、人間関係や仕事関係のバランスを修復し元気を回復する過程を描く。脚本家でもある中島さん自身が主人公となった「私小説」の趣のある作品となっているが、明治大正期の自然主義のようにじめじめしてはおらず、スッと読めて、サラッと忘れるスポーツドリンクのような味わいの作品であった。

『反貧困と派遣切り:派遣村がめざすもの』

今月は多忙を極め、ホームページの更新は滞ったままである。本も読まず映画も観ず、ただひたすら身を粉にして働いている。また家に帰ったら父親の仕事に圧殺され、土日も私用なのか公用なのか判然としない用事で潰れ、自分を省みる間もない。
以下、先ほど作成した高校生向けの推薦図書の原稿です。

2009年度 読書感想文推薦図書に寄せて

湯浅誠・福島みずほ著『反貧困と派遣切り:派遣村がめざすもの』(七つ森書館 2009年)

今年の冬、「派遣切り」で社宅アパートを追い出され、路頭生活を余儀なくされた人たちに対して、炊き出しや就労斡旋、生活保護請求といった支援活動が、東京のど真ん中にある日比谷公園で連日連夜展開された。新聞やテレビニュースでも大きく取り上げられたので記憶している者もいると思う。本書は、その「年越し派遣村」で村長を務めたNPO法人自立生活サポートセンター・もやい事務局長の湯浅誠氏と福島みずほさんの対談集である。
湯浅氏は、十数年前、渋谷駅周辺で暮らす野宿労働者の生活拠点回りや、宮下公園で年末年始の越冬活動、渋谷区役所への福祉行動を共にしたこともある私の学生時分の知人でもある。福島さんは弁護士の経験を生かして、労働や福祉、人権、憲法の問題に積極的に取り組んでいる国会議員である。
「派遣切り」問題の最前線の現場で知り合った二人の批判の矛先は、偽装請負や日雇い派遣の制度上の問題だけに留まらず、「自由」「自助努力」の名のもとによる労働環境の悪化、ふとしたことがきっかけで容易に貧困や自殺に追い込まれていく“溜め”の無い日本社会、そして、会社や家族、地域社会でのネットワークを断ち切り、人間らしさを排除しようとする社会のあり方そのものへ向けられていく。
福島さんが国会議員の立場から、労働派遣法改正や年金制度や雇用保険制度などの社会保障の充実を主張する一方、湯浅氏は一人の市民の立場から、個々人がコツコツやる小さい活動によって問題が可視化されて社会連帯が生まれていくと、市民の運動によって我らが「社会」を作っていく大切さを訴える。
ここ2~3年の小論文で狙われそうなテーマの一つが「格差」である。「グローバル経済」や「金融資本主義」の進展、「聖域なき構造改革」「自己責任」を錦の御旗にした雇用の悪化、「ライフスタイル」の多様化、「財政悪化」による「社会福祉」の行き詰まりなど複合的な要因が絡んで「格差」が生じている。また「格差」が社会にはびこっていくと、「教育の機会均等」が損なわれ、「地域での安全」が脅かされ、「家族関係」の希薄化が生じ、社会そのものへの不満が高まり、人と関わる人間性そのものが失われていく結果に繋がっていく。「格差」というものは、非常に多岐にわたる「絆」を破壊してしまうやっかいものである。
今秋に小論文を控えた3年生だけでなく、現代社会に関心を持つ1・2年生にも是非手にとってもらいたい一冊である。最後に、手に入れやすい新書や文庫、関連するサイトを紹介したい。

関連本
湯浅誠『反貧困‐「すべり台社会」からの脱出』(岩波新書)
雨宮処凛『排除の空気に唾を吐け』(講談社現代新書)
小林多喜二『蟹工船・党生活者』(新潮文庫)
関連リンク
年越し派遣村ブログ http://blog.goo.ne.jp/hakenmura/
自立生活サポートセンター もやい http://www.moyai.net/
反貧困ネットワーク http://www.k5.dion.ne.jp/~hinky/

『音楽でバリアを打ち壊せ』

菊地昭典『音楽でバリアを打ち壊せ』(岩波ジュニア新書 2002)を読む。
仙台のストリートで一日だけ開かれる「障害のある人もない人も」一緒に楽しむ音楽祭の実現に向けて、実行委員会を立ち上げ、開催に漕ぎ着けるまでのドタバタを描く。重度の障害を抱えた人が楽しめるような会場選びや、差別的表現にならないようなポスターの文言の工夫、障害者の活動紹介といった通り一遍なイベントにならないような宣伝の開拓など、開催に向けた活動の一つ一つが、障害者を巡る物理的心理的障壁にぶつかっていく。そして、行政やマスコミが作り出しがちな「障害者=可哀想な人・頑張っている人」といっ文化的障壁すらも打ち壊して、仙台で一日だけの音楽祭が開催される。
以後、このイベントは定例開催となり、今年2009年も開催され、来年は10周年を迎えるということだ。

□ とっておきの音楽祭 Official web site □