月別アーカイブ: 2013年8月
『天河伝説殺人事件』
内田康夫『天河伝説殺人事件』(角川文庫 1990)を読む。
一昨日まで同氏の『熊野古道殺人事件』を読んでいたのだが、電車内で眠りこけてしまった際に、どこかへ忘れてきてしまったようだ。
その代わりという訳ではないが、夏休み最後の読書のつもりで手に取ってみた。上下巻に分かれ、この手のミステリーとしてはかなりの長編である。
京都や奈良から見ると、吉野の奥地にあるのが、作品の舞台となった天川村や十津川村である。山深い谷間の村に纏わる殺人事件ということで、天川村の位置関係や地名などを地図で確認しながら読み進めていった。「本格」ミステリー作品であるにも関わらず、能楽に関する蘊蓄も理解できる、一冊で2度美味しい作品である。
『ねじれた伊勢神宮』
宮崎興二『ねじれた伊勢神宮:「かたち」が支配する日本史の謎』(祥伝社文庫 1999)を少しだけ読む。
建築を専門とする著者が屋根の形や建物の形から伝説や言い伝えを検証するという、歴史蘊蓄好きな者には興味ある内容となっている。しかし、タイトルに「伊勢神宮」とあったので手に取ってみたが、伊勢神宮に関する記述はほとんどなく、羊頭狗肉な内容であった。興味深そうな話もあったのだが、タイトルに騙されたような気がして十数ページ読んだだけで読了。
那智黒石
昨日の東京新聞夕刊一面に、硯や碁石の原料として知られる三重県熊野市産の那智黒石が、岩波書店の広辞苑で1955年以来、熊野那智大社のある和歌山県の那智地方で産出したと誤記されたままになっているという記事が掲載されていた。
ちょうど、昨日那智勝浦に行ってきたばかりだったので興味深かった。那智の黒石は熊野市神川町で採掘され、主に熊野那智大社周辺で販売されている。那智勝浦町では採掘されておらず、熊野市産出というのは間違いないようだ。
それにしても、この三重と和歌山の県境付近は地名が混在しており、辞書編纂の担当者が間違えるのも無理はないのではないか。熊野や紀伊という地名や駅名が三重にも和歌山に複数存在し、さらに文化圏も地続きとなっているため、他県の人にはなお分かりにくい。混乱に拍車をかけるような情報はきちんと峻別されるべきであろう。
『紀伊半島殺人事件』
西村京太郎『紀伊半島殺人事件』(祥伝社文庫 2003)を読む。
物語の半分ほどまでは、不可解な連続殺人事件で謎が深まっていき、東京と和歌山の警察が右往左往する姿に関心が高まっていった。この辺りの展開は西村氏一流のリズムであろう。しかし、後半に入ると、お馴染みの十津川警部の推察した展開そのままに現実が動いていき、「前半までの捜査は何だったんだ」とツッコミを入れたくなってしまった。せっかく地図を広げて楽しみにしていた空想上の旅気分が台無しになってしまった。