月別アーカイブ: 2017年8月

「地上型イージス導入へ」

本日の東京新聞夕刊に、防衛省が海上自衛隊のイージス艦搭載の迎撃ミサイルを地上配備する「イージス・アショア」の導入を決め、2018年度予算の概算要求に設計費を盛り込むとの記事が載っていた。当初は導入に向けた調査費を計上する方針だったが、北朝鮮による相次ぐ弾道ミサイル発射に対処するために前倒しした。

記事だけを読むと、調査をすっ飛ばして導入が決定されたと読み取れるが、あまりにご都合主義ではなかろうか。そもそも日本近海に配備されている迎撃ミサイルの対応能力すら試されないままに、防衛能力の向上が不可欠との判断で、地上にも導入するというのは如何なものだろうか。省内でも「北朝鮮の脅威」に誰も反対できない雰囲気のまま押し通されたのだろうか。それともトランプの圧力?

また、今回の概算要求には、自衛隊初の宇宙部隊の創設が盛り込まれている。日米が全世界を監視する体制構築を目指すために、日米が使用する人工衛星を対衛星兵器などから守る部隊を作るというのだ。しかし、成層圏の遥か先に浮かぶ衛星を守ることが「自衛」隊の管轄領域なのだろうか。2015年に策定された「日米防衛協力のための指針」には、「自衛隊及び米軍は、日本の上空及び周辺空域を防衛するため、共同作戦を実施する」との定めはあるが、宇宙は想定の範囲外である。また、「日米両政府は、適切な場合に、通信電子能力の効果的な活用を確保するため、相互に支援する」ともあるが、衛星の防衛がこれに該当するのであろうか。宇宙に浮かぶものは全て通信能力を備えており、さらに国境もないため、宇宙そのものを米国が支配し、日本がそれにスネ夫のように追従する形になるのか。
テレビで「核の脅威」が盛んに煽られるが、その一方でひっそりと行われる政治に注意を払いたい。

「イラン巨大油田開発入札」「イラク国境 サウジ開放へ」

本日の東京新聞朝刊に、2010年に日本が米国の制裁強化を受けて撤退した中東最大級のイラン南西部アザデガン油田の開発で、当時権益を持っていた開発帝石が海外石油大手主導のコンソーシアム(企業連合)に加わる形で国際競争入札への参加の検討を始めたとの記事が掲載されていた。

トランプ政権が同盟国イスラエルとともにイラン敵視の姿勢を崩さず、弾道ミサイル開発に関連して独自の制裁強化を繰り返す中で、国際帝石は企業連合を組んで米国以外との国とのパイプを強化したいという狙いがある。

アザデガン油田は260億バレルの埋蔵量と推定されており、日本としては失いたくない原油ルートである。油田は地層が褶曲した新期造山帯に溜まりやすい。イラン国内の油田は、アルプス-ヒマラヤ造山帯と重なるペルシア湾からイラクとの国境沿いの南西部にほぼ集中している。そのため、パイプラインを引く必要がなく(コストをかけずに)、すぐにタンカーで輸出できるメリットがある。他国を経由してパイプラインで輸送する中央アジアやシベリア地域などに比べてリスクも軽減できる。

 

また、別の記事では、サウジアラビアが1990年のイラクによるクウェート侵攻以来、閉鎖していたイラクとの国境の開放を計画していると報じている。イスラム教スンニ派のサウジは、2003年のイラク戦争の後で誕生したイラクシーア派政権との関係が冷え込んだが、14年に宗派間のバランスに配慮するアバディ政権が誕生すると、徐々に改善。翌年には大使館業務も再開している。

この背景には、シーア派が6割を占めるイラク国内で、親イランのマリキ前首相が率いる最大会派と対立関係にある、イランと距離を置く国内3番手のシーア派のサドル師派と、イラクで影響力を確保したいサウジの戦略が一致したという政治的思惑がある。

宗教や原油、国境すらも手玉に取ってしまう国際政治の怖さが垣間見える。

印パ 英領から分離独立して70年

本日の東京新聞夕刊に、2024年にも人口世界1位になると予測される大国インドと、そのインドが覇権拡大を懸念する中国との結びつきを強めてインフラ整備を進めるパキスタン両国の紛争から現在の政治経済状況までまとめて記事が掲載されている。

インドは毎年7%の成長で経済規模を拡大させているが、上位1%の富裕層が資産の58%を独占する格差社会となっている。インドの乳幼児死亡率は1000人当たり37.9人で、地方と都市の格差も深刻で、乳幼児の死者の7割が、国内で最も貧しいとされる9つの州に集中しているという。

また、パキスタンは民主政治が定着せず、武装勢力の活動もあって政情不安が続く。首都イスラマバードにある国際戦略研究センターのサルワル・ナクビ局長は「宗教を基盤にインドと分かれた当初から問題を抱えていた。国土や国家財産の多くがインドに渡り、自分たちの力で切り開かなければならなかった」とパキスタンが抱える様々な問題の根源を説明している。

インドは「世界最大の民主主義国家」と呼ばれ、政治的には安定しているものの経済的な不安定要素を抱えている。また、パキスタンはGDPでインドの約10分の1と及ばないが、現代版シルクロード経済圏構想「一帯一路」を進める中国の支援を受け、インフラ整備に力を入れている。両国とも導火線がはみ出した状態で、中国や過激派組織がいつ火をつけるとも分からない状況にある。せめてカシミール地方だけでも、中国が火種になる前に、中立国による委任統治や共同管理という形は取れないのだろうか。

印パ分離独立
20世紀前半のガンジーによる独立運動などを経て、英領インドは1947年8月、ヒンズー教徒主体のインドと、インドを挟み込む形で東部と西部にイスラム教と主体のパキスタンに、それぞれ分離独立した。東パキスタンは71年、バングラディシュとして独立した。分離独立時、パンジャブ、ベンガル地方などがインドとパキスタンに分割され、宗教対立から多数が犠牲となった。インドのジャム・カシミール州では現在も独立を目指す武装勢力が活動している。

『明日香の皇子』

内田康夫『明日香の皇子』(講談社文庫 2003)を読む。
1984年に単行本として刊行された本の文庫化である。「自作解説」の中で著者本人が、「僕がとくに好きで、ぜひお勧めしたい内田康夫作品のトップクラス、五つの中に入る」と述べているように、力のこもった作品である。高校時代に読んだ五木寛之の『風の王国』を彷彿とさせる作品で、二上山を舞台としたところや、歴史の闇に迫っていくところなどよく似ている。しかし、『明日香〜』の方も、やや粗削りながらテンポよく話が展開していき一気に読み終えた。
いつか、明日香周辺の裏道を自転車でのんびり回ってみたいものである。

米大統領ようやく「白人主義」非難

本日の東京新聞朝刊に、米南部バージニア州で白人至上主義を掲げる団体と反対派が衝突した事件で14日、ホワイトハウスで声明が読み上げられ、現場で集会を開いていた白人至上主義の秘密結社クー・クラックス・クラン(KKK)やネオナチを名指して非難したとの記事が掲載されていた。発生当初、トランプ氏は人種差別主義者を明確に批判しなかったことで、経済界からも抗議の声が出ていた。野党民主党も「白人至上主義の犯罪を非難するのに2日もかけるべきではない」と対応の遅さを批判している。

衝突事件そのものは、バージニア州シャーロッツビル市街地で、南北戦争(1861~65年)で奴隷制の存続を主張したとされる南軍司令官の記念像を撤去するシャーロッツビル市の計画に対する抗議などが目的で集まった右翼活動家らがデモを展開し、人種差別に反対する人らとの間で殴り合ったり物を投げ合ったというものである。州政府は「市民生活の混乱や人々への危害、公私に及ぶ財産的破壊が差し迫った」として非常事態宣言をしている。

そもそも、トランプ氏の対応よりも、奴隷制を主張した人物の記念像が今まで安置されていたことの方が驚きである。トランプ氏個人よりも、ここ数十年歴史と向き合って来なかった米国社会の罪の方が重いのではないか。AP通信は報じたところによると、シャーロッツビル市議会は四月に記念碑の撤去を決めたが、この決定について裁判所が一時差し止めを命じていたそうだ。

今、wikipedia英語版で「Robert E.Lee」や「Robert Edward Lee Sculpture」のページをザッと読んだところ、記念像の彼は大変有能で、日本で言うところの乃木希典や山本五十六、西郷隆盛のような評価が与えられている人物と想像される。そうした功罪両面ある人物の像というと撤去の可否の判断は一概には言えないかもしれない。