日別アーカイブ: 2005年12月5日

『自閉症の子どもたち』

酒木保『自閉症の子どもたち:心は本当の閉ざされているのか』(PHP新書 2001)を読む。
現在実習に行っている知的障害者更生施設の利用者の方への関わりのヒントになればと手に取ってみた。著者は自閉症を身体意識や空間認識、また、時間の感覚の「認知」に関する異常と定義づける。自閉症児は、自分と他人との違いがうまく区分できず、自分以外の人や物が自分だと思い込んでしまうことがある。その結果、「○○ちゃん(自分)に食べさせて」と言ったり、「ここ」「そこ」「あそこ」という指示代名詞がうまく使えないなど、他者との関係性における齟齬が生じる。

そこで、自閉症児は認知できない不安な外界から自分を守るために、自分をコップと思い込むなどといった「自我防衛機制」を働かせる。そのような「自我防衛」を「箱庭療法」や「遊戯療法」で徐々に変えていくことで、他者と関わる力を少しでもつけていく著者自身の手による療法が分かりやすく紹介されている。他の物に癒着した症児の主体を引き出す治療など、まるでエヴァンゲリオン初号機に心を囚われた碇シンジ君の話を聞くようなSFチックなものとなっている。

最後に著者は次の言葉でまとめている。現在の私自身の実習のテーマと重なっているため印象に残る言葉である。

自閉症について知りたいと思ったらオススメの一冊である。

自閉症児にとって本当に必要なのは、「いま」「ここ」に自分が存在することについて抱いている不安や恐怖を克服すること、安心して生き、生きようとする力を彼ら自身が手にするための援助です。そのために、人間と人間とが関わり合って生きていくということは快い体験なのだということを彼らが感じ取ることができる環境をつくっていかなくてはなりません。(中略)大切なことは、日本でとかく見られがちな、他職種間に見られる線引きや、縄張り意識を捨てさり、自閉症児の視点にたって物事を考えていくことです。自閉症児の治療においては「適切さ」と「一貫性」と「継続性」という三つの要素がすべて揃って、初めて効果があがります。そのためには、親だけでなく、治療、教育、福祉の統合的体制を整えることが重要であると強調したいと思います。