『バァバよ大志をいだけ』

黒柳朝『バァバよ大志をいだけ』(主婦と生活社,1986)をぱらっと読む。
著者は1910年生まれで、タレントの黒柳徹子さんの母親である。家族や日常生活を描いたエッセーなのでが、歯に衣着せぬ物言いが印象に残った。
以下は夫婦生活に関する内容だが、あまりにあっけらかんとしていて、いやらしさが微塵も感じられない。

新婚時代、昭和五、六年ごろでしたが、パパと私はダブルベッドにやすんでいました。それが私の悩みのタネでした。「私たち、もう何十年もダブルベッドよ」という友人は私のまわりにもたくさんいます。私はそれをきくと感嘆してしまったものです。なぜって・・・・・手がさわり足が触れ、そんな危ないことをしていたら、うちのパパなんか”食欲”が進んじゃってどうしようもないもの。私がそういうと、「まあ、うらやましいわ」といわれてしまいます。でも、何ごともほどほどがいいのであって、うちのパパときたら、おおげさにいえば”喜びも悲しみもアレ”で、「僕はアレが三度の飯よりも好き」だとか、「人生、アレがなかったら死んだほうがまし」と私にいってはばからない人でした。(中略)

パパは、私と結婚してからは、一度も浮気をしたことがありませんでした。と、私は自を持っていうことができます。いつかテレビで、浮気をしたことのない男性なんてありえないといっていましたが、もし本当なら、そんな本能を持って生まれてくる男の人って本当に悲しいこと。わが家では浮気をしない”シワ寄せ”というかストレスが、全部私にきているんだなあと思ったものです。もちろん、男性は悲しいどころか、誇りに思っているのでしょうけれど、それがあまりに大好きな男性と結婚した女性は、はたしてどうでしょう。私はいつも人間にだってシーズンオフがあればいいのに、いっそ、アレのない国へ行きたいと思っていましたもの。