上智大学アジア文化研究所編『入門東南アジア研究』(めこん,1992)を3分の1ほど読む。
何度も扱った東南アジアであるが、知っているつもりで分かっていないことも多かった。いくつか記しておきたい。
大航海時代の東南アジアとの交易品でまず有名になったのが白檀である。白檀はさわやかな甘い香りを持つ香木として知られ、殺菌作用、利尿作用の薬効成分もあり、循環器・消化器・呼吸器・神経系すべてに作用を及ぼすとも考えられている。お線香の原料としても使われるほど香りが良く、中国では白檀のことを栴檀ともいい、「栴檀は双葉より芳し(大成する人は幼少のときからすぐれている)」のことわざでも知られている。
白檀はもともとティモール島が原産地と推定され、最初に到着したポルトガルがティモール島の東半分を占領し、後を追ったオランダが島の西半分を奪ったのは、白檀をめぐる争いであった。
マレーシアの特徴は人口の半数弱を占めるマレー系のほか、中国系、インド系住民の人口比が多いことである。しかもマレー系の大多数が農村居住者であるのに比べ、中国系、インド系は半数以上が都市生活者であり、経済的に優位に立つ。そのため、ブミ・プトラ(「土地の子」を意味する)政策に拍車がかかっている。
言語教育も小学校までは民族語で行われるが、中学校からはマレー語のみとなる。大学教育もマレー語化が進んでおり、中国系やインド系には不満が生じている。
シンガポールでは華人が人口の75%を占めており、公用語は英語、マレー語、華語、タミル語の4つであるが、華人の間では出身地によって異なる言語集団が存在する。そのため、多言語社会の共通の英語への傾斜が高まりつつある。2020年段階では約半数が英語となっている。
東南アジアは大陸部は上座仏教、島嶼部はイスラームが古くから広まった結果、言語的にも大きな影響を受けている。上座仏教の経典は古代インドのパーリ語で書かれているので、タイ語の教員になるのにパーリが必修科目となるなど、エリートの印となっている。日本の古文漢文に近いものであろう。
島嶼部ではムスリムは正規の学校以外に宗教学校を持っていて、イスラームの経典の言語であるアラビア語の教育が宗教教育と並行して実施されている。こちらも日常言語はインドネシア語であるが、大学の第二外国語のような位置付けとなっている。
