市川猿之助『猿之助の歌舞伎』(新潮社 1984)をパラパラと読む。
現在テレビドラマで活躍されている四代目市川猿之助の叔父にあたる三代目市川猿之助さんの著書である。宙乗りや早替わり、派手な立ち回りなどエンターテイメント要素の強い歌舞伎の舞台裏をばっちりと解説している。また、著者は古典的な歌舞伎の枠を脱してオペラやアニメの世界観を取り入れたスーパー歌舞伎の創案者でもある。そうした革新の理由について著者は次のように語る。喧嘩を売るような文章が目を引く。芸術家にはこのような自尊的な物言いも時には必要だと思う。
日本の四代古典芸能というと能狂言、文楽、雅楽、そして歌舞伎とされていますけれど、歌舞伎には他の3つと比べて厳然と異なるところがあります。それは歌舞伎が大衆芸能として成立し、その時代の人々とともに生きつづけ、今なお変革しつづけている芸能だということです。
つまり時代によって観客の好む方向が違う。その方向に敏感に反応し、先取りすることによって歌舞伎は長く、幅広い階層に支えられてきました。その点、能や文楽、雅楽などは今、純度の高い化石みたいな存在です。これ以上変えようもなく変わりようもなく、素晴らしい作品としていわば博物館入りしている。最近歌舞伎も博物館入りへの岐路に立っているとかいわれていますが、そうなったらもう歌舞伎ではありません。歌舞伎の原点は、あくまで大衆芸能として生きつづけてきた点にあるのですから。