先日相米慎二監督『お引越し』をビデオを借りて観た。
ここ数年来、何回も観ているものであり、ストーリーはもちろんのこと台詞まで覚えてしまっているのに、観る度に感動が形を変えてやってくる。当初は「漆場漣子」役を演じる田端智子さんの無垢で迫真に迫る演技に魅了されたが、何度か観ているうちにラストシーンにおける一人の少女の成長の姿の意味について考えるようになった。ちょうど宮崎駿監督の『千と千尋の神隠し』とテーマといい、非日常的な舞台設定といいそっくりである。ある夏の日の思春期に差しかかる少年少女の心の成長を扱った作品は、スティーブン・キング原作の映画『スタンド・バイ・ミー』など洋の東西を問わない。この『お引越し』で描かれる少女の成長は、単に大人の世界をかいま見たとか、異性の魅力に触れたとか通り一遍の評論では語り尽くせない。竹林を彷徨い、もう一人の自分を見つめる自分と出会うという極めて哲学的なアイデンティティの確認作業が一人の少女を通じて行われている。
『お引越し』
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