月別アーカイブ: 2004年10月

『物語マリーアントワネット』

今日もまた落ち着かない一日を過ごした。いよいよ発表は明日に迫った。

窪田般彌『物語マリーアントワネット』(白水社 1985)を読む。
オーストリア帝国の女帝マリア・テレジアの愛娘としてルイ16世に嫁いだマリーアントワネットの一生を親愛を込めて描く。一般にマリーアントワネットというとフランス財政を逼迫させるほどの豪奢な生活を送り、重税に苦しんだ民衆の反感を買い、やがて断頭台に立たされる革命の憎まれ役である。しかし、マリーアントワネット一個人に歴史の転換点の役を荷なわせるのは間違いであり、あくまで唯物論的展開をなす歴史の発展の一局面にしか過ぎない。民衆による革命の正当性の分かりやすいエピソードとして祭られたに過ぎず、そうしたマリーアントワネット的な敵役を作ってしまうという民衆の側の心理状況を分析していくことが優先される。

『ああ無情』

ヴィクトル・ユゴー『ああ無情』(ポプラ社文庫 1985)を読む。
小学生でも読める振りがな付きの名作シリーズであるが、十分楽しめることが出来た。元囚人のジャン・バルジャンの悲哀に満ちた生活が映画的な手法で展開される。とても150年近く前に作られた作品とは思えない内容であった。『ああ無情』は世界で聖書の次に読まれているともいわれ、尾崎紅葉や田山花袋といった作家に強い影響を与えたと評される。確かに元囚人、下水道を逃げ回る主人公、刑事と犯人の宿命的な出会いなど現在の映画やアニメのそこかしこに『ああ無情』で描かれたシーンがちりばめられている。

埼玉新聞より

本日の埼玉新聞に県内の障害者の就職状況に関する記事が載っていた。障害者雇用促進法では従業員のうちの障害者の割合を1.8%以上にすることを企業に義務づけているが、埼玉県内の企業では1.38%にとどまっており全国ワースト2位だということだ。そのため県内のハローワークを通して障害者6604人が求職中であるが、実際に就職出来るのは7人に一人の狭き門になっている。埼玉県では「彩の国障害者プラン21」なるものを掲げ、「ノーマライゼーション推進県」を標榜するが、そういったアドバルーン的な施策方針が見事に失敗に終わっている数字である。

『感染』 『予言』

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落合正幸監督脚本『感染』・鶴田法男監督『予言』(東宝 2004)を観に行った。
2本立てで3時間半ずっと不協和音を聞き続けへとへとになった。手法としてはどちらもきわめて古典的な内容であるが、場面転換がテンポよく中だるみのない展開で、その分だけ疲れを癒す場面が少なく緊張しっぱなしであった。

『人間失格』

落ち着かない日々を過ごしている。

太宰治『人間失格』を読み返す。
ちょうど仕事で『人間失格』についての評論の一部を読んだので、久しぶりに読み返してみた。高校時代に一度、大学時代に一度読み、今回が3回目であろうか。
「いまは自分には、幸福も不幸もありません。ただ、一さいは過ぎて行きます」という有名なくだりにある通り、悲劇のヒーローにもなれず、ただ周囲との窮屈な人間関係から逃げ回るだけの主人公葉蔵を通した太宰治自身の自叙伝である。人間であれば誰しもが抱える人間不信、将来に対する不安、異性に対する恐怖などを太宰は正面切って描く。周りは普通に楽しくやっているのに、なぜ自分は楽しくないんだろう、なぜ普通なことが出来ないんだろうといった悩みは青少年に共通するものである。誰かに負ける、いじめられるといった他者に対する敗北は物語になるが、自分に対するコンプレックスは物語には決してなり得ない。自殺直前の作家だからこそ出来た芸当であろうか。