入江昭『平和のグローバル化へ向けて』(NHK出版 2001)を速読で読む。
『NHK人間講座』において放送された番組のテキストをもとにしたものであるためか、語り口が最初から最後まで徹底的に平板であるためかえって読みづらかった。しかし著者の主張は平易で、一国単位で政治や経済を考えるのではなく、地球という規模で歴史や社会を捉えるものが一人でも増えることで平和で安定した世紀が実現出来るという明快なものである。確かに、20世紀という100年だけを見れば、平和や民主主義、平等権、自由権の獲得と普及の度合いはその始まり比べて格段に進歩した。アパルトヘイトの解消や、女性の権利の向上、奴隷制度の撤廃、移動移住に伴う国籍の選択、発言や通信の自由など、多少の例外はあるにせよ、1900年よりは2000年の方がましである。
著者はそうした普遍的人権の向上の背景にグローバルな視点に立った政治の有り様を指摘する。第一次大戦の反省に生まれた国際連盟に始まり、第二次大戦の結果誕生した国際連合、1950年代の植民地解放に伴う第三世界の連携、そして1960年代におきた国際的な反戦運動、1970年代において爆発的に増加したNGO、1980年代以降の環境運動などを挙げながら、著者は連綿と自由と平等の概念が普及してきたその地平を確かめようとする。そして1930年代のファシズムや冷戦など逆風はあったが、そのようなグローバルな視野を持った勢力によって世界人権宣言が生まれ、人権思想や自由権が世界の隅々へ拡充してきたと述べる。しかし、1999年秋のWTOの方針に反対するシアトルでのNGOの蜂起や、2000年の春に起きたワシントンでのIMFに対するNGOのデモンストレーションなど、アメリカ的なグローバリズムの拡充が必ずしも幸福を生んでいない現状にも触れており、バランスの良い内容となっている。