平成20年度告示の学習指導要領においては,以前の指導要領が指導内容の厳選という方向のもとに基礎知識の低下を招いたという反省から,世界と日本の地誌学習を強化する方向が採られている。また,中央教育審議会の審議の中でも,グローバル化の進展や地球温暖化などの環境問題の深刻化を受けて,世界の諸地域の多様性に関わる基礎的・基本的知識並びに,世界全体の地理的認識を養うことが極めて重要だとの認識が示され,「世界の地理や歴史に関する内容の充実」が課題の一つとして挙げられている。今回の改訂で,地理的分野は「(1)世界の様々な地域」と「(2)日本の様々な地域」の二つの構成で再構成され,さらに「世界各地の人々の生活と環境」「世界の諸地域」の中項目が新設された。
「世界各地の人々の生活と環境」の内容は,「世界各地における人々の生活の様子とその変容について,自然および社会的条件と関連づけて考察させ,世界の人々の生活や環境の多様性を理解させる」と示されている。世界各地の人々の生活の様子を衣食住や宗教とのかかわりを中心に,自然及び社会的条件と関連づけて考察させ,世界の人々の生活や環境の多様性などを理解させることを主なねらいとしている。
この中項目は世界全体を学習の対象としており,地域や時代によって人々の生活が可変的なものであることに気付かせること,また人々の生活を取り巻く環境として,自然的条件だけでなく,歴史や民族構成などの社会的条件にも配慮しながら,伝統的生活様式が他の文化との接触や新しい技術の導入,経済活動の活発化によって変容することなどを取り上げたい。
授業の中で,暑い地域と寒い地域,山岳地域と島嶼地域などの自然環境や衣食住を取り上げ,人々の生活の工夫や,伝統的生活と現代の変化を捉えるといった学習活動が挙げられる。また,仏教やキリスト教,イスラム教などの世界的に広がる宗教の分布について把握し,歴史学習と関連づけた多様な文化を尊重する学習活動も考えられる。
「世界の諸地域」の内容は,「世界の諸地域について,アジア,ヨーロッパ,アフリカ,北アメリカ,南アメリカ,オセアニアの各州に暮らす人々の生活の様子を的確に把握できる地理的事象を取り上げ,それを基に主題を設けて,それぞれの州の地域的特色を理解させる」と示されてる。世界の各州を対象として,それぞれの州内に暮らす人々の生活にかかわり,かつわが国の国土の認識を深める上での効果的な観点から州内の特色ある地理的事象を基に主題を設定し,その追究を通してそれぞれの州の地域的特色を理解させることを主なねらいとしている。
この中項目では,それぞれの州の地域的特色を理解させるためには,まず,基礎的・基本的な知識を習得する学習を行い,それらの知識を活用して中学校第1学年の生徒の生活と結び付く地理的事象を取り上げ,生徒の関心と結び付きやすい主題を設定し追究する中で,地域的特色が明らかになるように学習を展開していくことが大切である。ただし地名や地域の特色を示す項目の暗記に終始するのではなく,取り上げた世界の諸地域についてイメージを構成することができ,地理的認識を深めていくことが重要である。
また,各州の自然,産業,生活・文化,歴史的背景などについて概観し,そこで暮らす人々の衣食住や生活様式,さらには社会や自然の人間のあり方に至るまでの地理的事象を取り上げ,概略的な世界像が形成できるようにする必要がある。
また,「州の地域的特色が明らかになり,かつ我が国の国土の認識を深める上で効果的な観点から主題を設定する」との内容の取扱いから,我が国との比較や関連すを図る視点を持つことや,世界の諸地域の多様性や差異を理解できる主題を設ける必要がある。
上記を踏まえ,この中項目の主題例を列記してみたい。「アジア:人口急増と多様な民族・文化」「ヨーロッパ:EUの発展と地域間格差」「アフリカ:モノカルチャー経済下の人々の生活」「北アメリカ:大規模農業と工業の発展」「南アメリカ:森林破壊と環境保全」「オセアニア:アジア諸国との結び付き」
世界の諸地域の学習においては,地球儀,世界地図,地図帳,衛星画像などを活用し,地理的知識や概念の定着を図るとともに,学習成果を世界地図上や略地図上に表現するなどして,地理的技能を育成することも重要である。また物語や小説なども活用して,生徒の生活経験と結び付いた情報を豊かに獲得させていく工夫も望まれる。
【参考文献】
『中学校学習指導要領解説 社会編』文部科学省 2008