本日の東京新聞夕刊から。
月別アーカイブ: 2021年10月
『ネグロス』
山本宗補『ネグロス:嘆きの島』(第三書館 1991)をパラパラと読む。
フィリピンで4番目に大きいネグロス島で起きた武力衝突や難民、貧困、プランテーション、NGO活動、国際結婚ビジネスなど、嘆きしかない島の惨状を写真と共に紹介している。
特に日本にエビを輸出するために、砂糖キビ畑を潰して、一面エビ養殖場のプランテーションに様変わりした写真が印象に残った。近年はインドやベトナム、インドネシアからの輸入が多いが、1980年代はフィリピンでも日本に輸出するために汽水のマングローブ林を伐採してエビの養殖場が次々と作られていった。しかし、ネグロス島で生産されるエビの身のほとんどが日本に輸出され、島の人々にはエビの頭の部分しか回ってこない。
その他、学生時代に先輩が批判していた財団法人オイスカ(NGO)の問題や丸紅による銅鉱山開発による自然破壊など、ネグロス島を取り巻く問題について丁寧に論じられている。しっかりと現地を回ってインタビューを重ね、現出される問題点の背景にメスを入れていく、ジャーナリストとしての姿勢が伺われる。
「パキスタン『核開発の父』カーン博士死去」
本日の東京新聞夕刊に、パキスタンで1990年代末に核実験成功を主導したカーン博士が死去との記事が掲載されていた。記事にもある通り、カーン博士によって、パキスタンの核開発技術が北朝鮮やイラン、リビアに極秘裏に提供されている。
また、記事では触れていないが、カーン博士は共同通信のインタビューの中で、1980年代に来日し、日本企業に核兵器に必要な部品を注文したと話している。麻生内閣の時に、国会でも取り上げられたが、真相は闇の中である。しかし、日本は米、露、英、仏、中の5か国の核兵器国以外への核兵器の拡散を防止する核兵器不拡散条約(NPT)に締結しており、この件は明らかに条約違反である。北朝鮮の核開発に日本企業が貢献していたというのは、あまりに間抜けな話である。
『蜩の記』
第146回直木三十五賞受賞作、葉室麟『蜩の記』(祥伝社 2011)を読む。
久しぶりの感動作であった。3年後の切腹を命じられ幽閉の身の秋谷と、刃傷沙汰により秋谷の監視役を仰せつかった庄三郎の二人の武士の物語である。そして村の百姓との出会いや恋物語、武士としての信念など、様々なエピソードを交えて、人間的に未熟だった庄三郎が心が通い筋がとった武士として成長していく姿がかっこいい。
直木賞受賞作として申し分のない出来である。
「習氏、台湾統一『必ず実現』」
本日の東京新聞朝刊に、中国で、満洲族王朝の清が倒れ中華民国が建国された辛亥革命(1911)から110周年を記念する大会が開かれたとの記事が掲載されていた。壇上にはデカデカと孫文の写真が飾られ、習近平国家主席が「中国共産党は辛亥革命を主導した孫文の忠実な継承者だ」とし、台湾独立を牽制したとのこと。
世界史を普通に勉強すれば、孫文の後継者は蒋介石であり、台湾の中国国民党へと系譜がつながっていくはずである。辛亥革命を持ち出すならば陳独秀や毛沢東を全面に掲げるのが筋である。にも関わらず、中国共産党が孫文の継承者をアピールするということは、大陸との繋がりを重視する中国国民党と連携し、台湾の独立志向が強い民進党・蔡英文政権に揺さぶりをかける思惑が見え隠れする。習近平ともパイプも太い中国国民党・馬英九前総統が裏で動いているのであろうか。