日別アーカイブ: 2021年7月11日

『大卒無業』

矢下茂雄『大卒無業:就職の壁を突破する本』(文藝春秋 2006)を読む。
リクルートで長年学生の就職サポートを務めてきた著者が、これから就活を迎える大学生の子を持つ父親に向けた就活のイロハと、子どもへの向き合い方や声の掛け方などについて、親身になって語る。2000年代半ばに大学生の子を持つ親というと団塊かそれより少し下の世代にあたり、好景気の当時では考えられない「就活」という言葉や、就職スケジュールから丁寧に説明されている。

また、子どもにアドバイスできるように、エントリーシートのポイントや、面接で試験官の印象に残る答え方などについても、「面達」張りに分かりやすくまとめられている。公務員試験の種別や、業界や業種別に仕事内容や向き不向き、今後の成長見込みなどが整理されており、できれば大学生の時に読みたかった本である。

「最低法人税15%合意へ」

本日の東京新聞朝刊に、20カ国・地域財務相・中央銀行総裁会議で、各国共通で法人税率の最低基準の導入で合意の見通しが立ち、巨大IT企業の税逃れを防ぐ「デジタル課税」の導入でも一致したとの内容である。記事では詳細な中身が見えてこないが、一部の多国籍企業が世界中の富の大半を独占する構造にメスが入るのならば歓迎すべき話題である。

1学期の授業の中で、「輸出加工区」という用語を学習した。主に発展途上国に設置され、多国籍企業の誘致の下で輸出向けの生産が行われる自由貿易区である。対外取引に便利な国際港の隣接地などに工業団地が造成され、関税や法人税の減免、外資比率の規制緩和、利潤 ・ 配当の本国送金の自由化などの優遇措置が採られる。1959年にアイルランドのシャノン空港で第1号が開設され、その後、アジア諸国を中心に多くの発展途上国に普及し、現在の設置国は90カ国にのぼる。こうした輸出加工区の税負担の軽さが多国籍企業の旨味ともなっている。1960年代、70年代の工業化の進展には大きく貢献したが、法人税の低い国へ工場がどんどん移転することになり、「産業の空洞化」の一因ともなっている。

また、GAFAと称される巨大IT企業の法人税逃れは、ここ10数年疑問視されていたことである。みなさんもネットで毎日のようにYoutubeの動画広告やインターネットサイトのネット広告を目にしているが、それらを扱うグーグル社の日本法人の法人税は税率の低いシンガポール政府に支払われており、日本人が間接的に支払って広告料からの法人税は日本政府に還元されない。また、グーグル社だけでなくアップル社の法人も、そもそも法人税がない「タックス・ヘイブン」の(天国[heaven]ではなく、回避地[haven])英領バミューダ登記されている。おかしな話である。そもそも国境がないデジタル企業に対し、ようやく法律が追いついた形である。

フランスの経済学者トマス・ピケティ氏も著書『21世紀の資本論』(私は読んでいないが…)の中で、あらゆる資本に対して累進的な税を課すべきだと述べる。固定資産税の仕組みを拡張し、株や普通預金などのあらゆる資本に課税の枠を広げ、さらに国際的な資金移動を透明化し、tax havenの規制を含めた「グローバル累進資本税」を提案している。米国と欧州の関係改善も背景にあるが、これからの議論の進展に期待したい。

『パラサイト社会のゆくえ』

山田昌弘『パラサイト社会のゆくえ:データで読み解く日本の家族』(ちくま新書 2004)を読む。
社会学の中心テーマである家族関係や労働、学校、年金などについてズバリ切り込んでいく。特に1998年という年が、日本社会が不安定化した節目の年だという意見が面白かった。数値例を挙げると、自殺者や青少年の凶悪犯罪、強制わいせつ認知件数、セクシャル・ハラスメント相談件数、児童虐待相談処理件数、「できちゃった婚」、「社会的ひきこもり」、「不登校」、子どもの勉強時間、フリーター就業人口などの数値が、1998年前後に軒並み望ましくない方向に振れていることが分かる。将来に対する希望や夢が持てなくなった日本社会に変貌した転換点が1998年であるという結論は、実感を持って理解できるところである。