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「中央アフリカ 紛争で避難民急増」

本日の東京新聞朝刊に、ユニセフの子どもの保護専門官として中央アフリカに赴任している小川亮子さんのインタビュー記事が掲載されていた。
記事によると、中央アフリカ昨年末から武装勢力同士の戦闘だけでなく、村も攻撃され、人々は着の身着のままで逃げている状況が続いている。ビスケットをもうらためだけに体を売る少女がいたり、数千人の子どもが兵士として雇われていたり、政治だけでなく経済も社会そのものが崩壊の危機に瀕している。産業もままならず、このままでは大規模な飢饉の恐れもあり、大量の餓死者が出る可能性が指摘されている。

アフリカというと、ソマリアや南スーダンなどの内戦や、シエラレオネやブルキナファソなど西アフリカの環境破壊、貧困などに関心が集まっていたが、中央アフリカはすっぽりと抜け落ちていた。統計によると女性の非識字率は75.6%に達し、重度の栄養失調の子どもは4万3000人にも上る見込みである。日本から遠い国だが、様々な媒体を通じ情報を発信してほしい。

中央アフリカ共和国
2013年、イスラム教の反政府勢力が首都バンギを制圧。キリスト教武装勢力と衝突し、国連平和維持活動の展開後も分派した複数の勢力などによる抗争が続く。背景には、金、ダイヤモンドなど豊富な資源争いがある。ユニセフによると、現在国内避難民は約64万人、近隣国への難民は57万人。世界飢餓指数は今年、119ヵ国で最下位。新生児と妊産婦の死亡率は世界で2番目に高い。

『権田の地理B講義実況中継(上)』

本日は春日部図書館に半日籠って勉強した。
近々の予習ではない勉強は久しぶりである。
河合塾専任講師を務める権田雅幸・佐藤裕治『権田の地理B講義実況中継(上)』(語学春秋社 改定新版2003)を、地図帳・資料集と合わせて熟読する。権田先生は既に鬼籍に入られたとのことだが、著者の権田先生・佐藤先生とも東大理学部の出身で理科的な観点から地理を語る視点が大変勉強になった。

勉強メモ

 

緑の革命以前は、発展途上国では河川デルタの湿地帯に種もみをパッと撒くだけのような農業スタイル。それが東南アジアでは品種改良や農業技術の進展によって劇的に変化した。

日本の鉱産資源は人口に比して量が少ないが、“種類”は比較的豊富である。石油も錫(すず)も鉄鉱石も商業ベースで扱うほどでないが産出はする。

世界中赤道が通っている主な陸地は南米のアマゾン川流域とアフリカのコンゴ川流域と東南アジアだけ。
赤道通過国を地図で確認しておこう。
南米:エクアドル、コロンビア、ブラジル
アフリカ:ガボン、コンゴ共和国、コンゴ民主共和国、ウガンダ、ケニア、ソマリア
東南アジア:インドネシア1か国のみ

「東京の年平均気温は約15℃(正確には15.4 ℃)、年間降水量は1500mmと(正確には1528.8 mm)」という基準を頭の中に持つこと。
1月2月の平均気温は5℃~6℃
7月~8月は26℃~27℃
年較差は20℃を越える。
全地球の平均気温が大体東京の平均気温と同じと言われる。
全地球の陸地の平均気温が大体800mm(推定)くらいなので、東京は全地球の約2倍の降水量。
そうすると、世界各地のイメージが掴みやすい。

「どういう条件のところが雨が多いのか、一言で答えよ」と言われたら、「暑いところ」と答えれば良い。飽和水蒸気量は、温度が上がるにしたがってグーンと増えていく。一方、寒冷砂漠という言葉があるように、寒冷地では年降水量はものすごく少ない。

U字谷は山の頂上付近に何年も積もった万年雪が、その重みに耐えきれなくなって滑り出す過程でできる。物理で摩擦力というのをやるが、動摩擦力は小さいが静止摩擦力非常に大きい。万年雪の固まりが動く際に、プリンをスプーンで抉り取ったような窪みができる。一番高いところに見られるのがカール(圏谷)と呼ばれ、真ん中がU字谷と呼ばれる。U字谷の形成においては、地面との摩擦が小さくなろうとする物理的法則が関係する。一定体積の氷に対して設置面積が最小になるのは、円の一部を構成するときなので半円形になる。
最後に下流地帯には堆積した石が積み上がったモレーンができる。また、U字谷が海岸まで達するとフィヨルドになる。

ヨーロッパはもともと農業に適した所ではない。北緯50℃以上の北欧やイギリス、ドイツ、ポーランドは氷河に覆われていたため土地が非常に痩せている。また、ヨーロッパ南部は地中海性気候で夏に乾燥する。夏の乾燥というのは農業には致命的。そこで冬の降水を利用して小麦を作るか、オリーブやコルクがし、柑橘類など乾燥に強い作物しか作ることができない。
この北の氷河と南の夏乾燥から逃れているのがフランス中央部とハンガリー盆地である。フランスはEU最大の農業生産を挙げているし、ハンガリーは東欧の穀倉地帯と呼ばれる。

元来土地が痩せているため、ヨーロッパでは連作ができず、1年作ったら1年休ませるという「二圃式農業」が生まれた。それから中世に至って、夏作・冬作・休耕地の三圃式農業に発達し、更に休耕地に家畜を飼って、その糞で肥料代わりにする農法へて進化していった。また、こうした三圃式農業は1軒1軒戸別に行なうのではなく、集落全体を3区分し各戸はそれぞれに土地をもっていた。

扇状地の形成において、流速が2倍になると運べる石の体積は2の6乗倍の64倍になるという物理の法則がある。3倍になれば3の6乗倍でなんと2000倍にもなる。逆に河川の傾斜が緩くなると、一気に流速が落ちて侵食力も運搬力も格段に弱くなり、粒の大きな堆積物が傾斜の緩慢地帯に溜まる。

三角州は3種類ある。1つ目は円弧状デルタ。ナイル川河口のが代表的。もうひとつ、カスピ海に流れ込むヴォルガ川を覚えておこう。2つ目は鳥趾状デルタ。試験に出るのはミシシッピ川河口だけ。河川の両側に堆積物が貯まることで、海の沖まで自然堤防ができる。ミシシッピ川の河口の中心都市であるニューオーリンズは、自然堤防の上にできた町である。ちょうど北緯30℃、西経90℃にあたるので覚えておこう。
最後がカスプ状デルタ。日本語では尖角状という。ローマを流れるテヴェレ川が典型的。

集落立地の公式
“集落の立地条件は、水が豊かな土地、すなわち豊水地では水害を受けないようなところ。乏水地では、逆に水が得やすいところ”
これに当てはめると乏水地の扇状地では、水が豊富な扇頂と湧水帯である扇端に集落が形成される。また、豊水地のデルタ地帯では洪水が怖いので、自然堤防上に集落が形成される。

河川の流れは何かの拍子にちょっと曲がり始めると、遠心力によって外側へ外側へとどんどん振り回されていく。そして極限まで進むとショートカットする流れができ、河跡湖である三日月湖が形成される。また、三日月湖の利用法であるが、水が溜まっているので、田畑の灌漑に使われたり、洪水を食い止める遊水池として使われることもある。

サンソン図法とは地球の表面という球面を平面に写す際に一番単純な形でうつしたもの。各区画の形を台形だと考えると、周辺部で歪みが大きいものの、上底・下底・高さが同じなので面積が等しくなる。

いまから3億5千万年前から2億5千万年前位までの古生代末期から中生代の始め、地球はシダ植物に覆われていた。植物が死ぬと結局残るのは細胞壁の部分、つまりセルロースのみである。セルロースの組成は(C6H10O5)nで表される。これは水素原子と酸素原子の割合が2対1なので、水分(H2O)が徐々に抜けていくと炭素(C)だけになる。
つまり時間をかけて水分が抜ければ抜けるほど、炭素の含有率の高い良質の石炭となる。だから新期造山帯にも石炭はあるけれども、でき方が古い分だけ炭化の度合いが古期造山帯の方が進んでおり不純物が少ない。

石油は液体なので、溜まる場所が限定される。また、石油は水よりも比重が軽いので、背斜構造部の地下水層の中の上の方に溜まっている。地形の構造から、現在でも褶曲構造が残されている新期造山帯に石油が算出するということになる。
地球上で一番長い山脈はロッキー山脈とアンデス山脈で全長は8000キロにも達する。石油というと中東のイメージが強いが、ロッキー山脈とアンデス山脈沿いの国は産油国が多い。アラスカ、カナダ、アメリカ、メキシコ、ベネズエラ、エクアドル、ペルー、チリ、アルゼンチンなどが産油国に数えられる。一方資源大国のブラジルだが、ちょうどアンデス山脈がブラジルを避けてしまっているので、石油には恵まれていない。新期造山帯の全てに石油があるというわけではない。日本の陸地からは石油は出ないが、日本海や東シナ海の海底には石油が眠っている。

〈新期造山帯の覚え方〉
環状の環太平洋造山帯、東西に長いアルプス=ヒマラヤ造山帯の大きく2つ。ちょうど山手線と八王子に向かう中央線のイメージ。そしてアルプス=ヒマラヤ造山帯の真ん中にパミール高原がある。中央線のさらに真ん中、ちょうど国分寺あたりにパミール高原がある。
また、ヒマラヤ山脈とアルプス山脈は直接繋がっているのではない。ちょうど中央線経由で真っ直ぐ西に向かう路線と府中を経由して京王線経由で八王子に向かう2つの路線があるイメージ。
西に真っ直ぐ向かうのは、途中アフガンとパキスタンの国境のヒンドゥークシ山脈、カスピ海の南側のエルブールズ山脈、カスピ海と黒海の間のカフカス山脈黒海の西側のトランシルヴァニア山脈、ルーマニア北部のカルパティア山脈と繋いで、アルプス山脈へ至る。

もうひとつがパミール高原からスライマン山脈、ザクロス山脈、 そしてトルコのアナトリア高原至るものである。 アナトリア高原から先はアドリア海のダルマティア式海岸やスロヴェニアにあるカルストを経由するディナルアルプス山脈からアルプス山脈へと至る。

アルプス山脈から先はフランスとスペインの国境を形成するピレネー山脈、イタリアのアペニン山脈から地中海を横断して北アフリカのアトラス山脈に至る系統などが続く。

インドとミャンマーの国境となっているのがパトカイ山脈とアラカン山脈。あまり聞きなれないが、周囲も険しいジャングル地帯となっておっり、ピレネー山脈と同様に文化の大きな境界となっている。インド=ヨーロッパ語族の言語も、ヒンドゥー教やイスラム教の宗教もミャンマーより以東のシナ=チベット語族や仏教圏と完全に一線が引かれる。

インドネシアは、アルプス=ヒマラヤ造山帯と環太平洋造山帯の合流地点で両方の造山運動を受けて島々が入り組んだ複雑な地形となった。カリマンタン島の東側にスラウェシ島とハルマヘラ島というねじ曲がった島があるのもそういう理由。

2000mを越える高地に作られる都市を高山都市と呼ぶ。大体は赤道付近にある。メキシコシティは2300mの高地にあるが、空気が薄いので、1968年のメキシコ・オリンピックではいろいろな記録が出た。短距離などの瞬発力を要求する種目では記録的な結果が出たが、長距離などの持久力を要する種目では結果が振るわなかった。
先進国の産業廃棄物や放射性物質の捨て場所として経済を成り立たせている国がアフリカ西部のギニアビサウ。国家財政の80%を廃棄物処理で賄っている。

セルバに囲まれたアマゾン川の代表的な河口都市・港湾都市を挙げると、上流からイキトス、マナオス、ベレンの3つ。イキトスはペルーにsるが、標高はわずか106mしかない。マナオスは北米とアルゼンチン・ブエノスアイレスを結ぶ道路が通っており、水陸両面でアマゾン川流域地域の交通の中心となっている。

南米はほとんどがスペイン語でカトリックというラテン文化である。ブラジルだけがポルトガル語であるが、スペイン語とポルトガル語は東北弁と大阪弁ぐらいしか違わない。そのなかでガイアナとスリナム、フランス領ギアナだけがゲルマン文化圏となっている。ガイアナはもともとイギリスの植民地でイギリス領ギアナと言った。スリナムはオランダ領ギアナであり、どちらも1960・70年代に独立している。またガイアナはイギリス領だったのでインド人が連れて来られヒンドゥー教がある。同様にスリナムではインドネシアのジャワ島から移民が入ったのでイスラム教が信仰されている。どちらも赤道に近いので、ボーキサイトが産出する点に注意。

熱帯地方、暑いところを寒流が流れていると、その近辺は雨が降りにくくなる。
通常は太陽光線が地上ないし海上を暖める。そこから放射熱が出て空気を下から暖めていく。すると地上・海上近くの暖められた空気が冷たい上空へと上昇して雲が作られる。雨が降るということと上昇気流が起こるということはほとんど同じ意味である。

寒流で海上近くの空気が冷やされると上昇気流は起こらず、雨が降りにくくなる。特に地球上で最も強い寒流であるペルー海流が流れる地域は乾燥度が強くなる。ガラパゴス諸島はエクアドル(英語でEquator、スペイン語でEcuador)に属し赤道直下にあるが乾燥しており、イグアナやゾウガメなどの乾燥に強い生き物が誕生した。また、ガラパゴス諸島は元は一つの島であった。島が分裂する過程で生物も島ごとに微妙な進化の違いを生じさせた。そこに注目したのがチャールズ・ダーウィンである。自然淘汰をベースに進化論を作る舞台となった。

長野県と富山県の県境となっている飛騨山脈(北アルプス)だが、一方が急傾斜の断層崖をなし、他方が緩傾斜をなす傾動地塊の代表例である。長野県川から飛騨山脈を見ると崖のようにそそり立っているが、富山県側からはバスで登ることができるほど、緩やかとなっている。3000mをちょっと越える立山も東側から登ると大変だが、西側からだと、2800mのところまでバスで行け、普段着のままで山頂まで行くことができる。

ヨーロッパ南部はテラロッサという間帯土壌が分布している。「テラ」は土、「ロッサ」はローズ、つまりバラ色を示す。石灰岩が風化してそこに鉄やアルミニウムの酸化物が混じってできた。アルミニウムの原料であるボーキサイトは赤道付近のラトソル土壌で多く取れるが、ヨーロッパ南部だけ例外。

砂州と砂嘴は区別しにくい。天橋立のようにストレートであれば砂州。三保の松原のようにカーブしていれば砂嘴と覚えるのが一番楽。

ケスタは一方が急斜面、他方が緩斜面の特異な地形であるが、パリのような大都市は防衛上、必ず緩斜面側に発達している。外敵が攻めてきても急斜面がまさにハードルとなる。

溶岩の粘性だが、その中の主要成分としてSiO2(二酸化ケイ素)に注目したい。
二酸化ケイ素をたくさん含めば含むほど粘り気が大きくなる。二酸化ケイ素というのは鉱物でいうと石英である。真っ白で純度が高いときは透明に近い石である。石英が完全に純度になってきれいに結晶化したものが水晶である。
二酸化ケイ素が多いほど白っぽい岩石となる。逆に少なければ少ないほど黒っぽい岩石となる。白っぽい岩石は花崗岩質でSiO2が多い、黒っぽい岩石は玄武岩質でSiO2が少ない。粘り気が多い溶岩ほど爆発しやすく大事故を起こしやすい。一方、粘り気が少ない溶岩はサラッと流れていくので危険が少ない。
デカン高原は粘性が少ない火山からできた地形である。SiO2が少ないので黒っぽい。そのためデカン高原の黒い土を「レグール」という。

SiO2が多いと酸性度が強く、SiO2が少ないとアルカリ性になる。例えば水と化合するとH2SiO3(ケイ酸)という酸性酸化物となり、農業には適さない。一方、黒っぽい岩石は鉄やマグネシウムの金属を含んでいる。金属の酸化物は水と化合すると水酸化物を作る。だからアルカリ性になる。

FeO+H2O → Fe(OH)2
MgO+H2O → Mg(OH)2

デカン高原の土壌は灰と同じくアルカリ性なので、綿花を作る弱アルカリ性にピッタリ合っているので、「黒色綿花土」とも呼ばれている。

「『共生』の国はどこへ 入管難民法の改正」

本日未明、与党と日本維新の会で外国人就労拡大に向けた改正入管難民法が参院本会議で可決した。
難民受け入れそのものは反対するものではないが、国会審議は酷いものであった。法案の肝心の中身が「法務省令で定める」とされており、議論のへったくれもない。本日付けの東京新聞の社説では次のように述べられている。

本来であれば、法制度の全体像は国会提出前に政府部内や与党内で綿密に組み立てられ、それを基に国会で十分な審議時間をかけて議論されるべきだ。
全体像を明らかにしないまま国会審議を強引に進め、成立さえすれば、あとは政府の思い通りになるという安倍政権の政治姿勢は、唯一の立法府である国会を冒涜するに等しい。断じて許されない。

ここ最近の防衛費の無駄遣いも含めて、「国民主権」すら明記されていなかった大日本国憲法下の明治時代の国会審議の方がよほど民主的である。八八艦隊の予算を巡って国会が紛糾したり、開拓使官有物払下げ事件で潔く政界から追放されたり、明治期の政治の方がここ数年の国会よりもマトモに見える。

『石原莞爾』

佐高信『石原莞爾:その虚飾』(講談社文庫 2003)を読む。
平岡正明氏が日本近代史上稀な「武装せる右翼革命家」と規定する一方で、「成人した風の又三郎」などと評しているように、「天才とバカは紙一重」を地で行くような人物であったようだ。

石原莞爾から少しずれるが、リベラルなジャーナリストの石橋湛山は、自らの拠る『東洋経済新報』の1921年7月30日号に「大日本主義の幻想」と題して以下のような文章を寄せている。当時石橋氏は36歳である。

 政治家も軍人も新聞記者も異口同音に、我が軍備は決して他国を侵略する目的ではないという。勿論そうあらねばならぬはずである。吾輩もまたさらに、我が軍備は他国を侵略する目的で蓄えられておろうとは思わない。しかしながら吾輩の常にこの点において疑問とするのは、既に他国を侵略する目的でないとすれば、他国から侵略せらるる虞れのない限り、我が国は軍備を整うる必要はないはずだが、一体何国から我が国は侵略せらるる虞れがあるのかということである。前にはこれは露国だというた。今はこれを米国にしておるらしい。果たしてしからば、吾輩は更に尋ねたい。米国にせよ、他の国にせよ、もし我が国を侵略するとせば、どこを取ろうとするのかと。思うにこれに対して何人も、彼らが我が日本の本土を奪いに来ると答えはしまい。日本の本土の如きは、ただ遣るというても、誰も貰い手はないであろう。さればもし米国なり、あるいはその他の国なりが、我が国を侵略する虞れがあるとすれば、それはけだし我が海外領土に対してであろう。否、これらの土地さえも、実は、余り問題にはならぬのであって、戦争勃発の危険の最も多いのは、むしろ支那またはシベリヤである。我が国が支那またはシベリヤに勢力を張ろうとする、彼がこれをそうさせまいとする。ここに戦争が起れば、起る。而してその結果、我が海外領土や本土も、敵軍に襲わるる危険が起る。さればもし我が国にして支那またはシベリヤを我が縄張りとしようとする野を棄つるならば、満州・台湾・朝鮮・樺太等も入用でないという態度に出づるならば、戦争は絶対に起らない。従って我が国が他国から侵さるるということも決してない。論者は、これらの土地をかくして置き、もしくはかくせんとすればこそ、国防の必要が起るのである。それらは軍備を必要とする原因であって、軍備の必要から起った結果ではない。

さらに石橋氏は次のように語る。

 もし朝鮮・台湾を日本が棄つるとすれば、日本に代って、これらの国を朝鮮人から、もしくは台湾人から奪い得る国は決してない。日本に武力があったればこそ、支那は列強の分割を免れ、極東は平和を維持したのであると人はいう。過去においては、あるいはさような関係もあったかも知れぬ。しかし今はかえってこれに反する。日本に武力あり、極東を我が物顔に振舞い、支那に対して野心を包蔵するらしく見ゆるので、列強も負けてはいられずと、しきりに支那ないし極東を窺うのである。

石橋湛山の文章は初めて読んだが、畳みかけるような文体に勢いがある。今現在、新聞に掲載されても、十分通用するような内容である。

後半、佐高信氏ならではの鋭い指摘がなされる。

 1932(昭和7)年3月6日、満州国執政の溥儀は関東軍司令官の本庄繁に書簡を出す。といっても日本側が書いて溥儀に署名させたものだったが、これは同年9月15日に締結された「日満議定書」の付属文書とされ、戦後になるまで秘密とされた。
山室信一の『キメラ-満州国の肖像』によれば、俗に「溥儀・本庄秘密協定」と称される溥儀書簡は次の4項目にわたる。

  1. 満州国は、国防および治安維持を日本に委託し、その経費は満州国が負担する。
  2. 満州国は、日本軍隊が国防上必要とする鉄道・港湾・水路・航空等の管理および新路敷設・開設を日本または日本が指定する機関に委託する。
  3. 満州国は日本軍隊が必要とする各種の施設に極力援助する。
  4. 達識名望ある日本人を満州国参議に任じ、またその他の中央・地方の官署にも日本人を任用し、その選任・解職には関東軍司令官の推薦・同意を要件とする。

「満州国」を日本に「日本および日本軍」をアメリカおよび米軍に置き換えれば、そのまま今度の新ガイドラインではないか。例えば(1)は「日本は、国防および治安維持をアメリカに委託し、その経費は日本が負担する」となるし、(3)は「日本は米軍が必要とする各種の施設を極力援助する」となる。
賢しげに国際政治の力学とやらを持ち出して米軍基地の撤去は非現実的と主張する「達識名望ある日本人」もいるが、フィリピンはアジア最大といわれた駐留米軍のクラーク空軍基地とスービック海軍基地を閉鎖した。
そのフィリピン大学教授のマリーン・マガローナは、被爆国の日本がアメリカの核抑止力を肯定するガイドラインをそのまま受け入れようとしているのは信じられないと批判し、国際社会に誓った平和憲法を踏みにじる約束違反と慨嘆している。
ガイドラインは、日本がつくったカイライ国家の満州に日本自身がなることであり、小渕恵三の溥儀化である。

 

「テロを助長する不公正」

本日の東京新聞朝刊に、論絶委員の青木睦氏のタジキスタンの政治・外交に関するコラムが掲載されていた。アフガニスタンの北隣に位置するタジキスタンでは、過激派組織「イスラム国」(IS)の活動が活発で、アフガニスタンからタジキスタンを経て中央アジア全域に脅威が及んでいる。そうした「過激主義は貧困や体制側の専横、腐敗という社会的不公正を土壌にしてはびこる」ものである。タジキスタンは人口は900万人足らずで、国土は日本の4割という小国である。インフラ整備が遅れ、世界食糧計画(WFP)によると、一日1.33ドル未満で暮らす人が半数近くに達する。旧ソ連圏の中で最貧国であり、多くのタジク人がロシアに出稼ぎに出かけている。国民総所得でもアジア全体でアフガニスタン、ネパール、カンボジアに次ぐ第4位の少なさである。
20年以上も大統領の座にあるラフモン氏への権力集中が進み、抑圧的な統治が続き、腐敗を始め長期政権の弊害も目立っている。青木氏が「民生の向上はテロ根絶につながる」と述べるように、日本から距離以上に心理的に遠いタジキスタンの政治に着目していきたい。