月別アーカイブ: 2014年7月

『原爆の図』

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丸木位里・丸木俊共同制作『原爆の図』(丸木美術館 1983)を見る。
原爆のキノコ雲の下で苦しむ人びとを描いた地獄絵図である。昔からその名前は知ってはいたが、実際に手に取って第1部から第15部まで全ての屏風絵を見るのは初めての経験であった。先日東京新聞で、原爆の図丸木美術館を学校の校外学習に出かけようと申請を出したところ注文がついたという記事を目にして、気にかかっていたので手に取ってみた。
丸木夫妻は広島・長崎の原爆の惨状に続いて、ビキニ環礁の水爆実験で被災した第五福竜丸、反戦・反原発の署名活動、灯籠流し、南京大虐殺、アウシュビッツ大量虐殺、沖縄戦、水俣病、三里塚闘争まで、一貫して「権力というバケモノにみんながいじめられている」姿を描いている。過去の歴史を過去のままに大切に「保管」しておくのではなく、現在に続いていく問題として提起している。また、ある一面からの被害の訴えに留まるのでなく、米国での原爆地獄絵図と日本国内での南京大虐殺の絵画の展示を、同じ「文脈」で位置づけている。
「現在進行形」として原爆を描いたこの『原爆の図』が刊行されて既に30年が経過している。高校生の教育に携わる身としては、当時の丸木夫妻が同時代の世代に訴えたかった思いを、30年後の現在にピチピチとした形で蘇らせるだけの「読解力や思考力、共感力」を豊かに育んでいきたい。

〈公式ホームページ〉
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『新世界の路地裏』

写真集『新世界の路地裏』(ピエブックス 2008)を眺める。
「路地裏」というタイトルに引かれ手に取ってみた。
モロッコ・フェズやクロアチア・ドブロヴニク、フランス・ボルドー、ハンガリー・ブダペストなど世界遺産の都市を中心に、洗濯物が干している狭い路地や石畳の坂道の写真が百数十枚収められている。
「路地裏」という言葉からもっと人間の生の生活の匂いがするいかがわしさを期待していたのだが、取り澄ました観光地の風景写真ばかりで、少し肩すかしを食らったような感じだ。

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「ASKA容疑者逮捕で浮かび上がる労働政策の疑惑」

本日、近所の公民館で、podcastで配信されている深夜の情報マガジン渋谷和宏・ヒント「ASKA容疑者逮捕で浮かび上がる労働政策の疑惑」(TBSラジオ 2014/06/29放送)を聞きながら採点に勤しんだ。
日刊ゲンダイの寺田俊治集局長相手に、先日覚醒剤使用で逮捕・保釈されたASKA容疑者と一緒にいた女性容疑者が所属していたパソナグループを取り上げていた。ASKA容疑者と女性容疑者が出会ったのも、パソナグループのパーティの席上である。また、そのパーティには政治家や官僚も多数招待されており、パーティの開催と軌を一にして、人材派遣会社に都合の良いように、人材派遣業界の環境や労働政策が整備されてきた経緯を指摘していた。このパソナグループには竹中平蔵元金融担当大臣も関わっており、政官財の利益誘導の匂いが否定できないとのこと。
思えば、パソナグループの成長の度合いと90年代後半以降の雇用環境の流動化は見事なまでに重なっている。日本国内における正規・非正規の格差の元兇は、派遣の枠が際限なく広がったことにある。
放送で示唆されたように、一企業の思惑通りに非正規が増える仕組みが作られたとしたらとても看過できない問題である。

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詳細は番組ホームページをご覧下さい。

『うけるプレゼンの技術が面白いほど身につく本』

長尾裕子『うけるプレゼンの技術が面白いほど身につく本』(中経出版 2001)を読む。
ここしばらく、プロジェクターを常に併用して授業を行うスタイルを試行錯誤している。黒板の半分程に黒背景の白文字で教科書の本文を映しているのだが、フォントやサイズ、配置、ファイル形式、アプリケーションなど、様々なスタイルを試している。タブレットを使いながら、古典の授業といえども、魅力を伝え、納得してもらう過程は、商品のプレゼンテーションと何ら変わる所がないと思い、何冊かプレゼンの本を購入した。

聴衆の関心をプレゼンターに引きつけるためのあいさつや自己紹介、ユーモアや間の取り方に始まり、清潔感や元気の良さ、ジェスチャーやアイコンタクト、アクション(話す場所の変化)、正しい敬語の使い方、聞き手に合わせたキーワードなど、学校の授業現場でも必要なことばかりであった。特に、大人の集中力が切れ始める40分程度のところで、「ここからが重要ですのでよく聞いてください」とか「メモしてください!」「いかがですか」「ポイントは3Hです」などの一言で流れを少し整えるというアドバイスはためになった。

また、効果的なプレゼンは、序論段階でこれから話すことの見出し(中テーマ)や話の流れ、そして「結論」を提示することで、プレゼンターも聞き手も頭の中が整理されて本論に臨むことができる。毎日のように続く授業であるが、惰性に流されず、毎時間毎時間、商品の契約までこぎつけるような熱意で勝負していきたい。

『工場萌えF』

石井哲写真・大山顕文『工場萌えF』(東京書籍 2009)を読む。
水島コンビナートや四日市コンビナート、製油所、ドイツの製鉄所など、溶鉱炉や熱交換器、ロータリーキルン、サイロ、タンク、煙突、コンベアなどのディープな風景の写真集である。
子どものために借りてきた本であるが、大人の私の方が興奮を感じた。人間サイズの大きさや手作業での営みを遥かに越える製鉄所やセメント工場の風景や馬鹿でかいパイプを見ていると、宇宙の大きさと自分を比べるようなスケールギャップを感じる。浪人生時代にバイクに乗ってお台場や浮島、川崎辺りの湾岸線沿線の工場街を駆け抜けていた頃を懐かしく思い出す。

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