渡辺勇『電気を発見した7人』(岩波ジュニア新書 1991)を読む。
ガルバーニによる電気の発見からボルタ、エルステッド、アンペール、オーム、ファラデーを経てマックスウェルによる電磁力学まで、私たちの生活を支える電気の発展の歴史を丁寧に解説している。「V=IR」とはオームの法則として有名な公式であるが、私たちは電流は流れるものとして、そして電圧は電流を流す圧力として何の疑いも持たずに暗記してしまうが、この公式が生まれるまでに様々な試行錯誤の実験が繰り返された。オームの公式で”I”は電流を指すが、これは元々電気というものにびっくりした研究者が放電による激しさや感電したときの衝撃の強さ、厳しさを示す”intensity”が由来となっている。この言葉一つとっても電気に人生を懸けてきた研究者の思いが伝わってくる。
オームの法則が15年間も認められずその正しい実証的な結果を歪曲したのは、「思想」というヘーゲル哲学派の暴力でした。科学に思想がないのかというと、科学にこそ実は思想が大切なんだということを、わたしたちは話し合ったのではないでしょうか。つまり電圧という思想をもつことによって、それまであいまいで不明瞭な電気の性格が、的確に、しかも全体がはっきりしてきます。電流、電圧、抵抗、そういう考え方ができあがってきて、はじめて電気回路という全体像が明確になったのです。思想というと社会科学や政治にかんすることをいうものだと思っているかもしれませんが、電圧という言葉のもつものも立派な思想であると私は思います。そのことを理解しないと、科学の言葉がもっている本当の意味が理解できなくて、ただ数式を暗記したり、問題を解くために公式を覚えているだけになってしまうでしょう。