日別アーカイブ: 2021年8月16日
『ヒマラヤペダル越え』
深町達也『ヒマラヤペダル越え』(文藝春秋 1989)を読む。
刊行当時慶応大学の学生であった著者が、チベットのラサからネパールのカトマンズまで自転車で走り抜いた冒険旅行記である。ヒッチハイクも入れながら、チョモランマのベースキャンプにも立ち寄っている。グーグルマップで調べたところ、約1000kmの道のりで、獲得標高が40000mというとんでもない数字が表示された。当時は舗装もされておらず、さぞ苦しい旅であったろうと推察される。
現在と同じく、中国の人民解放軍が市中を闊歩し、ダライ・ラマ14世はインドへ亡命しているが、まだ旅行での端々にチベットならでは独自の文化が感じられる。本人の手によるものなのか、出版社の手がかなり入ったのか分からないが、自転車での冒険よりも、内面の感動の表現に力が入るポエム的な要素もあり、その点はさらっと読み飛ばした。
ダウンヒルは、何といってもサイクリングの最大の楽しみだ。もちろんヒルクライムも充実感をともなう楽しみのひとつである。峠を征服する成就感だけでなく「登る」という作業自体にも生産的な楽しみを感じるときがある。だが、これは「勤労」の喜びだ。ストイックな心だ。
それに引き換え、ダウンヒルではすべてが逆転する。これこそ、いままで必死に貯めてきた「財産」を蕩尽する瞬間だ。刹那の快楽だ。本能の解放だ。価値の破壊だ。
「ハイチでM7.2 1297人死亡」
本日の東京新聞夕刊に、一昨日に発生したハイチの地震が報じられていた。
2学期の授業で扱うプレートの地図と照らし合わせてみると、今回の震源地の真下を「ずれる境界」が通っていることが分かる。地図を見る限り、今回の震源地は「狭まる境界」上にないので、海溝型地震に伴う津波の心配はほぼ無い。しかし、大地が大きく2つにずれる直下型地震となり、人間が生活する地域に直接大きな被害が出る。
外務省のデータによると、ハイチの人口は1,126.3万人、面積は北海道の約1/3程度の27,750平方キロメートルとなっている。人口密度は406人/平方キロメートルとなっており、日本よりも高い数値である。また、民族は中米の島国なのに、アフリカ系が95%を占める。元々は西アフリカから連れてこられた黒人奴隷の国である。一人当たりのGNIは790米ドルと、南北アメリカで最貧国となっている。現在でも主要な産業はカカオ、マンゴー、コーヒー、サトウキビなどの商品作物であり、19世紀あたりの世界史の教科書に出てきそうな雰囲気の国情である。
また、カリブ海は熱帯性低気圧(太平洋西部ではタイフーン、インド洋ではサイクロン、太平洋東部や大西洋で発生するものをハリケーンと呼ぶ)の通り道であり、北半球ではこの8月、9月に熱帯性低気圧の発生のピークを迎える。ハイチの経済状況を考えると、地震からの復旧が遅々として進まないところで、ハリケーンの被害が拡大することが予想される。