月別アーカイブ: 2015年11月

『MW』

mw

手塚治虫『MW(ムウ)』(小学館文庫 1995)を読む。
数年前に玉木宏主演の映画で観たときは、後半のガサツな展開にがっかりきたのを覚えている。
しかし、漫画の方は想像力で補う部分もあり、1960年代、70年代の戦争と反戦運動の交錯した雰囲気がよく伝わってきた。
米軍と自民党の蜜月な関係や新左翼のテロ、同性愛など、正義と友情の手塚漫画とは思えないようなテーマを扱っており、映画化が難しいと言われた理由もうなづける。
アマゾンのレビューに「読みながら、頭の中にジャズがうるさく響きました。そして、灰皿を埋める煙草の匂いまでも。」というコメントが載っていたが、なかなかニクい表現である。

『目を閉じて心開いて』

三宮麻由子『目を閉じて心開いて:ほんとうの幸せって何だろう』(岩波ジュニア新書 2002)をだいたい読む。
幼くして視力を失いながらも、上智大学大学院博士前期課程を修了した努力家の著者が、自身の生活体験や読書体験に根ざしたいろいろな思いを語る。最初の章で著者は自身の障碍について次のように語る。

物心ついたときには、私には人に見えているものが見えないという事実は分かったけれど、見えていたころのような暗闇を絶えず見ているとは思わなかった。見えないということは、目をつぶるというのとは違う。再び目を開けばまた見えるという希望は永遠にない。それは、見えることと比べて「見ていない」のではなく、見えるという感覚そのものが消え去ることなのである。景色が目の前から消える。暗闇というものでさえ見えなくなってしまう。それは、景色を失うこと、”sceneless”(全盲)になることであった。

視力を失うことの絶望や居場所探しに始まり、多文化や自分探し、心の平安など、そのまま道徳の教科書にしても何の問題もないほどの優等生的な内容であった。ただし、省略の多い和文調ではなく、修飾句が多用される翻訳調の文体なので、正直読みにくかった。編集サイドの問題であろう。

『「ほんもの」のアンティーク家具』

塩見和彦『「ほんもの」のアンティーク家具』(新潮社新書 2004)を半分ほど読む。
東京都八王子市でアンティーク家具ショップを営み、年3、4回ヨーロッパのウェアハウスやオークションで仕入れまで行っている著者が、見栄えや年式、材質などに騙されず、大切に使い込まれた時間を味わうことができる家具選びの経験則が詰まっている。
ただし、オークやマホガニーの見分け方など、あまり興味のない分野の本だったので、さっと読み飛ばした。

『娘が東大に合格した本当の理由』

陰山英男『娘が東大に合格した本当の理由:高3の春、E判定から始める東大受験』(小学館101新書 2008)を読む。
「百ます計算」をはじめとする読み書き計算の徹底反復と、「早寝早起き朝ごはん」の標語で知られる生活改善の指導で子供たちの学力を驚異的に伸ばした「陰山メソッド」で知られる著者の娘の東大合格体験記である。

前半は著者の父から見た娘の成長や努力、自身の教育観や家族論、後半は娘の視点で東大受験にまつわる心模様が綴られている。東大合格と言っても、一浪しての合格であり、特別「○○メソッド」と言ったような指導や学習法が載っているわけではない。家族一緒に過ごす時間を大切にし、食生活や睡眠のリズムを整え、頭を活性化させる環境を作ることが大切だという。
陰山氏は子どもの学力について次のように述べる。

 さて、たくましい脳の活力はどのように知識となり、学力として形成されていくのであろうか。私はそのカギが言語にあると思っている。私の理解では、実は計算も数の世界での言語だ。
 要は、ある種の事象を具体的に数値や言語によって記号化し、抽象化する。それを脳の中で組み立て、分析していく。この作業が学習だと言ってよいだろう。とするならば、言語を通じて活力ある脳が鍛えられていく最も中心的な学習は何か。
 それは読書である。私は読書なき子ども達の学力向上などありえないと思ってきた。

陰山氏は、上記のような考えのもと、常に子ども達が本に触れるような読書家庭環境や、カルタ遊び、図書館通いなどを提唱する。
また、同じような内容なのだが、別の章では次のようにまとめている。公私ともども参考にしてみたい。

 私は娘の東大受験を総括氏、その必然性を考えてみた。そして思う。東大合格の鍵となるのは、脳の高度な情報処理能力である。そしてありがたいことに、この情報処理能力は意図的に伸ばすことができる。
 そのために第一に必要なのは、生活習慣である。その意義は、脳そのものを元気に成長させることにある。その要点をまとめていう言葉が、早寝早起き朝ごはんである。規則的な生活習慣の中で、ゆっくり寝ることで、脳の成長の時間を確保し、しっかり栄養のある朝食を食べることで、脳がもっとも働く時間にしっかりと働かせることだ。
 次に必要なのは知的な環境と働きかけである。勉強は、するのとさせられるのでは、その本質は大きく違う。もちろん教師はさせるのだが、それをあたかも子どもが自分からしたかのように演出するのが腕の見せ所であり、親も実は同じである。
 その導きが大きく影響するのが、読書習慣の確立である。読書習慣の確立は、知的環境作りが大きく影響する。毎日の読書時間作りや読書スペースの確保、本が読みたくなる本棚、そして何より読みたくなる本の準備、こうしたことを意図的にやらなければいけない。

『早稲田と慶応』

橘木俊詔『早稲田と慶応:名門私大の栄光と影』(講談社現代新書 2008)を読む。
私立大学を代表する早稲田大学と慶応大学の成り立ちや創設者の比較、慶応式一貫教育に代表される階層固定化、早稲田大学のマスプロ教育、拡大路線の功罪などを取り上げながら、日本の私立大学の行き先を占う内容となっている。

また、いまだに旧帝国大学よりも下位に見られる私立大学が、創立者が志したように国家や圧力や規制を跳ね返し、学問・研究水準を向上させ、真に新しい方向性を打ち出すことができれば、米国の名門大学に肩を並べる超名門校に仲間入りができるだろうとまとめている。