三宮麻由子『目を閉じて心開いて:ほんとうの幸せって何だろう』(岩波ジュニア新書 2002)をだいたい読む。
幼くして視力を失いながらも、上智大学大学院博士前期課程を修了した努力家の著者が、自身の生活体験や読書体験に根ざしたいろいろな思いを語る。最初の章で著者は自身の障碍について次のように語る。
物心ついたときには、私には人に見えているものが見えないという事実は分かったけれど、見えていたころのような暗闇を絶えず見ているとは思わなかった。見えないということは、目をつぶるというのとは違う。再び目を開けばまた見えるという希望は永遠にない。それは、見えることと比べて「見ていない」のではなく、見えるという感覚そのものが消え去ることなのである。景色が目の前から消える。暗闇というものでさえ見えなくなってしまう。それは、景色を失うこと、”sceneless”(全盲)になることであった。
視力を失うことの絶望や居場所探しに始まり、多文化や自分探し、心の平安など、そのまま道徳の教科書にしても何の問題もないほどの優等生的な内容であった。ただし、省略の多い和文調ではなく、修飾句が多用される翻訳調の文体なので、正直読みにくかった。編集サイドの問題であろう。