藤巻健史『なぜ日本は破滅寸前なのに円高なのか』(幻冬舎 2012)を読む。
著者の肩書きがとにかくすごい。一橋大学を卒業後、三井信託銀行に入行。社費でMBAを取得後、米モルガン銀行に入行。東京屈指のディーラーとしての実績を買われ、東京市場唯一の外銀日本人支店長に抜擢され、同行会長から「伝説のディーラー」のタイトルを贈られる。同行退行後は、世界的投資家ジョージ・ソロス氏のアドバイザーを務め、一橋大や早大で講座を受け持ち、現在は「日本維新の会」所属の参議院議員となっている。
文章は非常に読みやすく、門外漢の私にも、実体経済とかけ離れた円高の弊害や、固定相場制の限界、先物取引の仕組みがよく分かった。
特に、著者が強調する円安の効果が興味深かった。
円安になれば、輸出産業が儲かるが、輸入価格が上がり、やがて取り返しのつかないインフレになるので、為替は安定している方がよいと一般的に信じられている。しかし、輸入に頼らざるを得ないウランや原油、天然ガスなどのエネルギー資源については、輸入に頼る必要のない水力や太陽光、メタンハイドレードに国を挙げて移行すれば、輸入価格の上昇が国民生活を圧迫する影響を減らすことができる。著者は、円高で発電用の輸入原料が安かったので、風力や太陽光などの自国産のエネルギーの開発や研究が進まなかったと指摘する。
また、農業分野でもTPPで関税がなくなり、外国産の安い農産物が国内に自由に入ってくると、国内の農業が潰れてしまうという不安がある。これも著者に言わせれば、「農業問題というよりも、為替問題」となり、「日本の農業の衰退の最大の理由は円高なのだ」という結論になる。関税を撤廃しても、仮にその分だけ円安が進行すれば、海外の日本への輸出企業は価格的に魅力がなくなり、やがては日本への輸出を自主的に減じることになる。関税ではなく、円安こそが日本の農業を守るのである。
円安にするだけで、日本の農業が守られると、単純に結論づけることはできないだろう。しかし、円安で製造業だけでなく、農業も潤すという考えは、大変印象に残った。