映画の試写会の鑑賞券が当たったので、イオンシネマで、李相日監督渡辺謙・柄本明・柳楽優弥主演『許されざる者』(2013 ワーナーブラザース)を観に行った。
辛口にコメントするならば、中身の薄い大作映画だった。明治初期、元下級武士の釜田十兵衛が、女郎の顔を傷つけた破落戸(ごろつき)に復讐を果たし、さらにアイヌや女郎を差別的に扱う官軍に一矢報いるという内容である。しかし、渡辺謙演じる釜田たちの任侠心がいまいちはっきりとせず不純なものであるため、作品全体がすっきりとしないままに終わってしまう。アイヌを苛烈に支配してきた旧幕府の侍が、亡くなったアイヌ人の妻への慕情を心に仕舞い込みながら、官軍に鉄槌を加えるという設定自体が分かりにくさの原因となっているのであろう。ハリウッド映画のように、もっと単純に勧善懲悪な内容であれば共感しやすかったと思う。
日別アーカイブ: 2013年9月10日
「変わる知の拠点」
本日の東京新聞夕刊に、「変わる知の拠点」と題した連載記事が掲載されていた。本日は自治体直営の公共図書館で非正規職員が増えているという内容であった。
現在、日本の公共図書館で働く人のうち、パートやアルバイトといった非常勤・臨時職員が年々増えている。指定管理へ移行した図書館の委託・派遣職員を含めると、2012年現在、3214館の図書館で働く約2万7千人の職員のうち、非常勤職員は1万5789人、67%に上るという。
記事では非常勤の司書職がいないと仕事が回らない実態が明らかにされている。正規に司書がいない図書館で勤務する非常勤司書の「非常勤が図書館を背負っている自負がある」という一言が印象に残った。ネットを活用してレファレンスを個人で行うことが簡単になった時代に、正規の司書が必要がどうかは意見の分かれるところであろう。
昔は本の配置や管理、適切な保存法などはある程度職人業のようなところがあり、司書でなければ図書館は務まらなかった。しかし、現在はネットで本の購入、配置も可能であり、バーコードやPOSシステムを用いれば、管理や人気作品の把握も容易になっている。商売人の経験や勘が頼りであった商店の切り盛りが、誰でもが経営できるコンビニになったように、情報端末を駆使すれば図書館の運営は「素人」でも十分に可能である。
ネットで全国どこでも本が買えるようになった現在、公設の図書館が逆に地元の小さい本屋や出版社を圧迫しているのではないだろうか。私はむしろ市町村の図書館は子どもが活字に親しむ機会を増やすことだけに注力して、高校生以上の大人が本屋を活用する機会を奪うものになってほしくないと思う。
非正規労働者の増加は憂える事態であるが、それと図書館のあり方の問題は切り離して考えた方が良い。
パンフレット研究:東京歯科大学
東京歯科大学のパンフレット(2014年度版)を読む。
1890年に設立された高山歯科医学院が母体となっている伝統校である。1907年に東京歯科医学専門学校、1946年に我が国初の歯科大学となり、1958年には単科歯科大学初の大学院を設置している。一時期付属病院のある千葉市稲毛区に拠点移していたが、2012年度より水道橋に戻り、2013年7月にはドデカいオフィスビルのような水道橋新校舎が完成している。また、校歌は北原白秋作詞、山田耕筰作曲の威風堂々としたものであり、創立者の血脇守之助は野口清作(後の野口英世博士)を住居から就職まで面倒をみて米国留学の渡航費用も工面したそうだ。歴史を語るには事欠かない。
偏差値も私立大学歯学部トップであり、「私たちは、日本の歯学界をリードするスーパーデンティストを育成します。」という宣伝文句を掲げている。歯髄の幹細胞や口腔粘膜の免疫機能の研究や、慶応大学との連携による口腔がんの診断・治療など、歯科医養成大学の範疇越えて、国立大学並の教育を行っている。国家試験合格率は全国29歯科大学・学部中、13年連続No.1であり、研究体制だけでなく、国家試験対策のWebシステムやきめ細かい面談など盤石のバックアップ体制を敷いている。
おそらくは東京医科歯科大学などの国立大学に落ちた受験生の受け皿となっているのであろう。受験倍率も他の私大歯学部とは雲泥の差で、全国47都道府県全県から受験生が集まり、3倍〜9倍もの倍率を出している。3000万円を越える学費を払える家庭は限られるであろうが、東京のど真ん中で学ぶ環境は素晴らしい。しかし、総合病院を含め3つも経営しているのだから、法人全体で学費の減額を検討してもよいのではないだろうか。昭和大学歯学部は付属病院の利益を回すことで、2013年度より500万円近くの学費値下げを実現している。