日別アーカイブ: 2006年3月23日

〈法学〉再提出

 法律上の婚姻をした夫婦の間に生まれた子を嫡出子,法律上の婚姻届をしていない男女の間に生まれた子を非嫡出子という。憲法14条において法の下の平等が定められているにも関わらず,民法900条4号但書前段では,非嫡出子の法定相続分につき、嫡出子の2分の1として,嫡出でない子を差別している。これは明治民法1004条を踏襲したもので,本来は家制度の継承を狙いとしたものであった。

 この差別的法規定に対する反対の声は年を経るごとに大きくなり,1971年には法務省法制審議会では相続法が審議され、非嫡出子の相続分につき賛否両論を併記し、更に検討をするとの中間報告が公表された。次いで,1979年に日本が批准した国際人権規約のうちB規約第24条1項では、「すべての児童は、人種、皮膚の色、性、言語、宗教、国民的もしくは社会的出身、財産又は出生によるいかなる差別もなしに、未成年者としての地位に必要とされる保護の措置であって家族、社会及び国による措置についてのすべての権利を有する」と明確に規定されている。

 1995年7月に最高裁において,民法900条4号の但書前段の合憲性に対する判決が下された。多数意見は「法の下の平等に関する憲法14条1項は,合理的理由のない差別を禁止する趣旨である」「法律婚主義のもとで嫡出子を尊重するとともに,認知された非嫡出子にも配慮して相続分を認め,法律婚主義の尊重と認知された非嫡出子の保護のバランスを調整したもので,合理的な根拠がある」として合憲とした。但し,15人の裁判官中,5人が反対意見を述べ,賛成意見中4人の裁判官が立法による解決が望ましいとする補足意見を述べ,裁判官の間でも意見は分かれた。

 反対意見としては「多数意見は認知された非嫡出子が婚姻家族に含まれないという属性を重視し,そこに区別の根拠を求めるものであって,相続において個人の尊厳を立法上の原則とする憲法24条2項の趣旨に反する」「出生について責任がなく,その意志や努力によって変えることのできない非嫡出子という身分を理由に法律上差別することは,法律婚主義の尊重という立法目的の枠を超えている」「非嫡出子を嫡出子よりも劣るとする観念が社会的に受容される素地をつくる重要な要因であって,今日の社会状況に適合せず合理性がない」などの主張がなされた。

 私は民法900条4号但書前段は違憲だと考える。94年に日本も批准した子どもの権利条約では子どもの社会的出身や出生によるあらゆる種類の差別を禁止しており,この条約に抵触する民法900条4号但書の早急な改正が求められる。現民法の規定は一夫一婦制の法律婚主義を保護し,子どものは親の専有物であるかのような古い家族観を前提としている。子どもに生まれながらに格付けを与えることは,シングルマザーや事実婚などの新しい家族像を社会が受け入れるにあたって大きな阻害要因となる。

参考文献

1995年7月5日最高裁判決 判例タイムズ885号83頁
2003年3月28日最高裁判決 判例時報1820号62頁
2004年10月14日最高裁判決 判例時報1884号40頁 法学教室2004年12月291号136頁
東京弁護士会意見書「非嫡出子の相続分差別撤廃に関する意見書—民法900条4号但書改正案—」1991年3月7日

〈社会福祉援助技術演習3〉

 アイマスクウォークとインスタントシニアの2つの障害疑似体験を通して改めて障害者や高齢者と同じ視点に立つことの難しさを知った。言い換えれば,私たちがいかに日常生活のほぼ全てを視覚や聴覚だけに頼って行動していたかという実態が見えてきた。アイマスクウォークでは,前後左右も分からないのに,支援者より「あと○○cm」「もう少し左」と声を掛けられて困惑するだけであった。また,インスタントシニアでは視野狭窄により自分の目で自分の足元すら確かめることができずに立ちすくんでしまった。

 しかし,そのような五里霧中の状況の中で触覚の確かさを実感した。コピー機に触れてみると,液晶の操作パネルは何が表示されているのか皆目検討がつかないが,スタートボタンや数字キーはボタンの中心が窪んでいたりポッチがついていたりしてすぐに扱うことができた。また,トイレや階段では手すりの曲がり具合で周囲の位置を把握することができた。さらに,屋外に出ると足元の地面の形状で立っている場所が分かり,また,皮膚感覚を通して太陽の位置や風の吹く向きなどが分かり,前後左右の方向感覚をもつことができた。

 確かに,人間の得る情報の9割は視聴覚に依拠しており,視聴覚は瞬時に多様な情報を分析することができるが,残りの1割に過ぎない触覚や嗅覚,味覚をフル活用することで,これまでとは違った世界が広がっていくことを実感できた。シニアウォークで感じたことだが,自由が利かない体ゆえに,腰に重心を乗せて顎を引き,体幹部を真っ直ぐにして正しい歩行姿勢を意識するようになった。また,視覚が制限されることで周囲の人の声色や息遣いがリアルに伝わってきた。

 私たちは障害者や高齢者を身体の機能が健常者よりも劣った存在であるとの前提で支援をしがちである。しかし,手足の指先感覚や視聴覚にのみ依拠している私たちよりも,障害者や健常者のほうが実は体機能をうまく使えているのではないだろうか。支援の側に回る私たちこそが触覚や体全体のバランスなどに日常気付きにくい感覚に敏感になり,支援される側の感覚を共有することが,今後の福祉援助技術に求められる。

 京都大学霊長類研究所教授の正高氏は,障害者と健常者のありかたを次のように述べる。
「今日では唯一,個性的な身体とのつき合いができているのが,実に障害者と呼ばれる人々なのである。健常者が身体を画一的に用いて,浅薄に生活しているのに対して,障害者の方が個々人の背負っている障害の質が,各々個性的な分,健常者では埋もれてしまっている可能性を,個性的に活用して生きているように思えてならないのだ。障害者が健常者よりも劣っているなど,とんでもない誤った考え方といえるだろう。障害を持つ人に生き方を学ぶ,障害者学というものが何より求められている。」

 参考文献
 正高信男『赤ちゃん誕生の科学』 PHP新書,1997

〈社会福祉援助技術論3〉

 この論においては,渋谷周辺地域で野宿生活を送る人びと(ホームレス)の命と生活を支える活動を行なっている野宿当事者と支援者による民間NGOグループ”のじれん”という団体をとりあげてみたい。のじれんは今年で結成されて9年になり,正式名称は「渋谷・野宿者の生活と居住権をかちとる自由連合」という。300名以上の野宿者が現在も渋谷や代々木公園で生活しており,野宿者同士の連携と生活基盤の確保を目的に設立された団体である。

 バブル崩壊後,特に建設業界で大幅なリストラが実施され,建設業界に従事していた「使いやすく切りやすい」ブルーカラーの労働者が都市部に押し出され,テントや段ボールでの野宿生活を余儀なくされるようになった。しかし,野宿者は「怠け者」や「好きで野宿している」とのレッテルを貼られ,心無い若者による虐待も相次ぎ,命の保障すらない状況である。最近では公園の再整備という名のもとで行政による暴力的なテント排除も行われている。

 当初は学生やキリスト教者のボランティアが食事や健康面での援助活動を行なっていた。しかし,ボランティアによる支援は「援助する側」と「援助される側」が明確に分断されてしまい,一方的に善意を与える関係が作られ,野宿者同士の連携を築き上げていくところまで至らなかった。
特に公園内でテントを張って生活する野宿者は行政との応対や不審者への対応,「えさ場」の確保など,生活の場を同じくするものが生活直結の課題に向けて団結していく必要がある。

 のじれんでは一人では難しい炊事や警備,福祉行政に対する働きかけや就労の確保に共同して取り組んでいる。最近では野宿者自身が仕事を分担し動いているので,支援者は何もすることがないとぼやく程である。

 しかし,近年は東京都は「地域生活移行支援事業」として野宿者に対して,家賃3000円でアパートを提供し,さらに6ヶ月間の就労を保障する施策を始めた。これまで何ら対策を取ってこなかった経緯を考えると行政が動いたという一定の評価はできる。しかし,その対象は公園でのテント生活者のみであり,仕事の保障はわずか6ヶ月しかなく,その後はまた路上生活を強いられる可能性が高く,近視眼的な見通ししか立たないものである。また,受け入れ体制の確立と引き換えに東京都は公園整備を掲げ,野宿者のテントの一斉撤去も行なっている。「自立支援」という福祉政策のもとに個々の野宿者の間に格差を設け,一定のラインに達しないものは徹底して切り捨てていく容赦のないものだとも言える。

 「市民」という枠から外されてしまい福祉の手が伸びにくい野宿者問題の解決にあたっては,「支援—被支援」の関係を脱し,同じ仲間としての団結力を高めるような当事者組織が求められるのである。

 参考文献
 渋谷・野宿者の生活と居住権をかちとる自由連合(のじれん)「のじれんアップデート」(http://www.geocities.jp/nojirenjp/)2006年3月20日取得

〈障害者福祉論1〉

 「完全参加と平等」をスローガンとする1981年の国際障害者年と,続く83〜92年の「国連・障害者の十年」によって障害をもつ人たちへの差別をなくしていく活動が世界的に進められた。日本では,「心身障害の発生予防」や「保護」を目的とした「心身障害者対策基本法」が改定され,「すべて障害者は,個人の尊厳が重んぜられ,社会を構成する一員として社会・経済・文化その他あらゆる分野の活動に参加する機会」を保障し,「障害者の自立及び社会参加の支援」というノーマルな社会のあり方を指し示した障害者基本法が策定されるに至った。
 施策の策定にあたっては,障害者の年齢や実態に応じて,「障害者の自主性が十分に尊重され,地域において自立した日常生活を営む」ことへの配慮を求めている。施設・在宅を問わず,障害のある人の生命,生活,生涯にわたるQOLの質の向上のため,医療・福祉の分野に止まらず,教育や雇用・就業,所得保障,生活環境の改善,専門職の養成に至るまで,多岐にわたる施策が体系化されている。
 また,国民全員が障害者についての正しい理解を持ち,「社会連帯の理念」に基づき協力し,さらに,障害を理由とした差別や権利利益を侵害する行為を禁止することを定めている。
 こうした障害者の福祉や障害の予防を総合的かつ計画的に推進するため,政府・都道府県・市町村に「障害者基本計画」を策定する義務を課している。これを踏まえて2002年に閣議決定された基本計画では,ノーマライゼーション及びリハビリテーションの理念に則り,国民誰もが相互に人格と個性を尊重し支えあう「共生社会」の考えが打ち出されている。また,基本計画における重点的な施策と達成目標を定めた「新障害者プラン」も同時に決定され,基本法の理念が具体的な数値目標として具現化されている。
 基本法では更に,教育における障害のある児童・生徒と障害のない児童・生徒の交流及び共同学習を積極的に進めることにより,その相互理解を促進する旨が2004年の改定で追加された。障害のある児童生徒との交流の機会やボランティア活動を通じて,豊かな人間性や社会性を培うことを明記した1998年告示の学習指導要領の指針を,改めて行政側に突きつけている。また,同じく,障害者の地域における作業活動の場及び障害者の職業訓練のための施設の拡充を図るため,費用の助成や必要な施策を講じる旨が追加された。
 これら教育や施設の監督にあたる都道府県や市町村に対しては,基本計画の策定が努力義務から義務へと改定された。2007年の策定実施に向け,各市町村で様々な取り組みが模索され,実質的な効果があがることが期待される。

〈医学1〉

 主な生活習慣病には高血圧症,糖尿病,高脂質血症,通風,骨粗鬆症の5つがあるが,そのうちの4つは肥満と深い関わりがある。
 病気や障害の予防には健康増進による発病そのものの予防,早期発見,早期治療による合併症進行の予防,そしてリハビリテーションによる心身の障害や機能の維持,回復という3つの段階があるが,生活習慣病は毎日の生活の中で健康増進を図ることによって発病を未然に防ぐことが大切である。
 一般に肥満度が上昇すると,摂取栄養の約50%を占める炭水化物の代謝を制御するホルモンであるインシュリンの活動が低下(インシュリン抵抗性)する。そのため体内で過度にインシュリンが産生されるようになって,癌細胞の増殖の原因ともなる。さらに老化や肥満が進みインシュリンが産生できなくなると,糖尿病になってしまう
 生活習慣病につながる肥満の予防策として「一無、二少、三多」の心がけが重要である。
 「一無」とは禁煙である。喫煙は肺がんの危険因子であるばかりでなく、血管を収縮させて血圧を上昇させたり、活性酸素を発生させて悪玉コレステロールの酸化を促し、動脈硬化を促進させる。
 「二少」とは小食,少酒のことである。過度な食事や飲酒は生活習慣病の直接の原因となっている。その予防として,まず第一に,摂取栄養については肉の脂やバター,スナック菓子などの動物性脂肪に多く含まれている飽和脂肪酸の摂取を減らし,イワシ、サバなど青身魚や、オリーブ油、サラダ油などの植物性脂肪に多く含まれている不飽和脂肪酸をなるべくたくさん摂取することである。飽和脂肪酸を多く摂り過ぎると、血液の粘度が高くなって、血が流れにくくなり、やがて動脈壁に脂肪やコレステロールが沈着、血中コレステロールの濃度が上がり、動脈硬化を引き起こす原因になる。そして、心臓病などの危険が高まる。
 そして,第二には野菜や果物の種類を豊富に摂ることである。野菜・果物には,カロテノイド,葉酸,ビタミンC,フラボノイド,フィトエストロゲン,イソチオシアネート,食物繊維などが多く含まれる。特にごぼうや小豆に多く含まれる食物繊維にはコレステロール値の低下や血圧上昇を抑制する機能がある。さらに,便通を促すことで腎肝機能の強化も図ることができる。
 最後の「三多」とは多動と多休、多接のことである。特に多動が大切で,有酸素運動といわれる酸素を活発に取り込んで行う,ジョギングやサイクリング,早歩き,水泳,エアロビクスなどの定期的な運動が効果的である。その結果,軽症の糖尿病や軽度の肥満者の血糖値やインシュリンの抵抗性を是正することや,カルシウム摂取量を併用することによる骨塩量の改善効果が期待できる。また適度な休養と友人との交際はストレスを和らげ,インシュリンの過分泌を抑える効果がある。

 参考文献
 高橋龍太郎「なぜ中年の肥満は悪いのか」『図解 老化のことを正しく知る本』 中経出版,2000年