「完全参加と平等」をスローガンとする1981年の国際障害者年と,続く83〜92年の「国連・障害者の十年」によって障害をもつ人たちへの差別をなくしていく活動が世界的に進められた。日本では,「心身障害の発生予防」や「保護」を目的とした「心身障害者対策基本法」が改定され,「すべて障害者は,個人の尊厳が重んぜられ,社会を構成する一員として社会・経済・文化その他あらゆる分野の活動に参加する機会」を保障し,「障害者の自立及び社会参加の支援」というノーマルな社会のあり方を指し示した障害者基本法が策定されるに至った。
施策の策定にあたっては,障害者の年齢や実態に応じて,「障害者の自主性が十分に尊重され,地域において自立した日常生活を営む」ことへの配慮を求めている。施設・在宅を問わず,障害のある人の生命,生活,生涯にわたるQOLの質の向上のため,医療・福祉の分野に止まらず,教育や雇用・就業,所得保障,生活環境の改善,専門職の養成に至るまで,多岐にわたる施策が体系化されている。
また,国民全員が障害者についての正しい理解を持ち,「社会連帯の理念」に基づき協力し,さらに,障害を理由とした差別や権利利益を侵害する行為を禁止することを定めている。
こうした障害者の福祉や障害の予防を総合的かつ計画的に推進するため,政府・都道府県・市町村に「障害者基本計画」を策定する義務を課している。これを踏まえて2002年に閣議決定された基本計画では,ノーマライゼーション及びリハビリテーションの理念に則り,国民誰もが相互に人格と個性を尊重し支えあう「共生社会」の考えが打ち出されている。また,基本計画における重点的な施策と達成目標を定めた「新障害者プラン」も同時に決定され,基本法の理念が具体的な数値目標として具現化されている。
基本法では更に,教育における障害のある児童・生徒と障害のない児童・生徒の交流及び共同学習を積極的に進めることにより,その相互理解を促進する旨が2004年の改定で追加された。障害のある児童生徒との交流の機会やボランティア活動を通じて,豊かな人間性や社会性を培うことを明記した1998年告示の学習指導要領の指針を,改めて行政側に突きつけている。また,同じく,障害者の地域における作業活動の場及び障害者の職業訓練のための施設の拡充を図るため,費用の助成や必要な施策を講じる旨が追加された。
これら教育や施設の監督にあたる都道府県や市町村に対しては,基本計画の策定が努力義務から義務へと改定された。2007年の策定実施に向け,各市町村で様々な取り組みが模索され,実質的な効果があがることが期待される。
〈障害者福祉論1〉
コメントを残す