法律上の婚姻をした夫婦の間に生まれた子を嫡出子,法律上の婚姻届をしていない男女の間に生まれた子を非嫡出子という。憲法14条において法の下の平等が定められているにも関わらず,民法900条4号但書前段では,非嫡出子の法定相続分につき、嫡出子の2分の1として,嫡出でない子を差別している。これは明治民法1004条を踏襲したもので,本来は家制度の継承を狙いとしたものであった。
この差別的法規定に対する反対の声は年を経るごとに大きくなり,1971年には法務省法制審議会では相続法が審議され、非嫡出子の相続分につき賛否両論を併記し、更に検討をするとの中間報告が公表された。次いで,1979年に日本が批准した国際人権規約のうちB規約第24条1項では、「すべての児童は、人種、皮膚の色、性、言語、宗教、国民的もしくは社会的出身、財産又は出生によるいかなる差別もなしに、未成年者としての地位に必要とされる保護の措置であって家族、社会及び国による措置についてのすべての権利を有する」と明確に規定されている。
1995年7月に最高裁において,民法900条4号の但書前段の合憲性に対する判決が下された。多数意見は「法の下の平等に関する憲法14条1項は,合理的理由のない差別を禁止する趣旨である」「法律婚主義のもとで嫡出子を尊重するとともに,認知された非嫡出子にも配慮して相続分を認め,法律婚主義の尊重と認知された非嫡出子の保護のバランスを調整したもので,合理的な根拠がある」として合憲とした。但し,15人の裁判官中,5人が反対意見を述べ,賛成意見中4人の裁判官が立法による解決が望ましいとする補足意見を述べ,裁判官の間でも意見は分かれた。
反対意見としては「多数意見は認知された非嫡出子が婚姻家族に含まれないという属性を重視し,そこに区別の根拠を求めるものであって,相続において個人の尊厳を立法上の原則とする憲法24条2項の趣旨に反する」「出生について責任がなく,その意志や努力によって変えることのできない非嫡出子という身分を理由に法律上差別することは,法律婚主義の尊重という立法目的の枠を超えている」「非嫡出子を嫡出子よりも劣るとする観念が社会的に受容される素地をつくる重要な要因であって,今日の社会状況に適合せず合理性がない」などの主張がなされた。
私は民法900条4号但書前段は違憲だと考える。94年に日本も批准した子どもの権利条約では子どもの社会的出身や出生によるあらゆる種類の差別を禁止しており,この条約に抵触する民法900条4号但書の早急な改正が求められる。現民法の規定は一夫一婦制の法律婚主義を保護し,子どものは親の専有物であるかのような古い家族観を前提としている。子どもに生まれながらに格付けを与えることは,シングルマザーや事実婚などの新しい家族像を社会が受け入れるにあたって大きな阻害要因となる。
参考文献
1995年7月5日最高裁判決 判例タイムズ885号83頁
2003年3月28日最高裁判決 判例時報1820号62頁
2004年10月14日最高裁判決 判例時報1884号40頁 法学教室2004年12月291号136頁
東京弁護士会意見書「非嫡出子の相続分差別撤廃に関する意見書—民法900条4号但書改正案—」1991年3月7日