村上春樹『村上朝日堂の逆襲』(朝日新聞社 1986)を読む。
マスコミにほとんど出ない春樹氏の私生活が垣間見えて興味深かった。特に彼が少し使用しただけのボールペンがたまっていき困っている様子が面白かった。
五十本のボールペンは夜の雪のごとく静かに我が家にたまっていったのである。引っ越しのたびに僕はそのボールペンの束を前にして、心の底からうんざりすることになる。五十本のボールペンなんておそらく僕には一生かけたって使い切れないのだ。しかしそれではその不必要なボールペンを邪魔だからといってあっさり捨ててしまえるかというとこれができない。(中略)ときどき「もうインクが固まって書けなくなっているのがあるんじゃないかな」と期待して一本一本ためしてみるのだが、最近のボールペンは質が向上したのか、そういう例はほとんど見受けられず、がっかりしてしまう。
私自身物が捨てられなくて困っている。一間しかない狭いアパートなのに、物であふれかえっているのだ。文房具箱の中にも幼稚園時から使用している消しゴムやらチビた鉛筆を再利用するためのもの(何て表現すればいいのだろう?)やらごちゃごちゃ詰まっている。春樹氏のいうインクが固まったものがあるのではと期待して試してみるという点に特に共感を覚えた。