図書館司書教諭講習より
図書の選択について
1 図書の選択の変遷
17世紀以降、大学に図書館が設置されて以来、図書の選択について様々な見解が出された。その変遷をかいつまんで紹介したい。
- 教養中心説
イギリス図書館界の指導的立場であったエドワーズが図書館法の制定にあたり、「紳士は古典・哲学書・宗教書を読み、素養を身につけるべきだ」という主張のもと、教養書を中心とした選択基準が示された。
- 社会需要説
イギリスのマッコルヴィンは、図書館そのものが社会の必要性によって生み出されたものである以上、図書館の蔵書は社会の需要に基づいて構成されるべきだとし、図書選択に当たっても各図書は社会の需要に供給うするという感覚で評価する必要があるとした。
- 文化機能論
アメリカのバトラーは「図書は民族の記憶を保存する社会機構の一つで、図書館は生活する個人の意識にこれを伝達する社会施設の一つである」と主張した。このの思想は現在でも世界の図書館界の主流を占めている。バトラーは図書館とは人類の獲得してきた知識を収集保管しておき、これを必要とする人にはだれという区別なしに提供する社会的機関だとするわけであるが、図書館は一人ひとりの生活、人間向上、社会的進歩などを考慮し、究極的には人類の反映につながるような内容の本を選ぶべきだとした。
2 学校図書館における図書選択
学校図書館は、学校教育の効果を最大限に高めるよう、学校教育を援助・充実せしめるように機能しなければならない。その役割から引き出される選択基準は、”その図書は自校の教育に役立つかどうか”である。当然教育的色彩が強い選択基準になり、ほとんどの図書を教育課程の展開と生徒の人間的成長に資する立場で選ぶことになる。各教科の参考文献、また名作と呼ばれる本や参考図書を備える必要がある。またその選択に当たっては教員はもとより、生徒や父母の要求にも応えていかなくてはならない。
全国学校図書館協議会は1988年に「図書選定基準」をまとめている。その中では、教科の参考文献、名作にとどまらず、科学的な正しさ、論理的展開、資料の適切さ、異見・異説の紹介、原拠が示されているかどうかにまで踏み込んで基準を示している。また内容だけでなく、適切な表現や構成、造本・印刷の点も考慮に入れることを提唱している。
3 これから求められる図書の選択について
戦後学校図書館法が成立した後も、図書館は学校の隅に追いやられ、本好きな子供のみを対象とした本の保管場所という地位に位置づけられていた。しかし1998年に文科省より、小学校の学習指導要領の中で、「自ら課題を見付け、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、よりよく問題を解決する資質や能力を育てること。学び方やものの考え方を身に付け、問題の解決や探求活動に主体的、創造的に取り組む態度を育て、自己の生き方を考えることができるようにすること」という方針が出された。これは初等・中等教育全体に示された考え方で、学校図書館を「利用」することから、「活用」することへの転換が表されていると考えることが出来る。これまで教科の範囲外で、読書の大切さや、読書感想文の指導がなされてきた。しかしこれからは教科の中で、生徒が問題解決能力を向上させていくための積極的な図書館活用が求められている。そのためには図書の選択についても、教科書の巻末に挙げられているような文学歴史作品を中心とした既存の「名作」だけでなく、様々な教科の教員が選定に加わり、その学校に応じた本の選択基準の考え方を共有していかねばならない。
4 私自身の図書選択基準
昨年度の末、私が職員会議に提出した図書選択に当たっての見解の一部を抜粋して紹介したい。進学校の高校を対象としているが、ほとんどの高校において通用する考え方と選択図書を示したつもりである。
これから学問の世界を目指していく段階にあり、進路等で悩みを抱えている高校生の耳目を広く開かせていくような本を生徒に提供していきたいと考える。文学作品だけでなく、人文系・社会系・自然系分野において、教科の範囲から一歩踏み込んでいく生徒の関心をつかむような大学1年生レベルの入門書の充実が望まれる。また大学入試(とりわけ小論文対策)も視野に入れ、ブックレットのような使いやすい資料も必要であると考える。私見として、社会系・自然系分野の本が少ないと思われる。法学、日韓問題、人権問題、情報分野、遺伝子や臓器移植関連の本、物理・化学・生物学・地学の基礎的参考書、哲学、現代思想、英語の原文などの本を揃えていきたい。
- 岩波書店刊行「岩波ジュニア新書」(全250冊程)「岩波科学ライブラリー」(全83冊)、現代書館刊行「フォービギナーズシリーズ」(全90冊)〔注1〕「フォービギナーズサイエンス」(全7冊)講談社刊行「なっとくシリーズ」(全26冊)〔注2〕「ゼロから学ぶシリーズ」(全4冊)については過去に遡って購入できるものはすべて購入する。また今後逐次刊行され次第購入する。
- 講談社刊行「ブルーバックス」、岩波書店刊行「岩波ブックレット」について過去3年間で手に入るものは購入する。また今後刊行され次第購入する。
- 講談社刊行「現代新書」岩波書店刊行「岩波新書」は過去1年間に遡って購入できるものはすべて購入するまた今後刊行され次第逐次購入する。
- NHK出版刊行「宇宙〜未来への大紀行」(全4冊)購入する。また今後NHK出版刊行の大型企画の本は逐次購入予定。
- 自由国民社刊行「現代用語の基礎知識」集英社刊行「イミダス」朝日新聞社刊行「知恵蔵」文芸春秋社刊行「日本の論点」等の年次刊行物については既に刊行されている最新版より今後逐次購入する。
- 文学・歴史への興味・関心を持たせるために、漫画の類いは検討の上、購入していく。今年度予算においては、横山光輝作「三国志」(潮出版社全60冊)、「史記」(小学館全15冊)、大和和紀「あさきゆめみし」(講談社全13冊)を購入する。
参考文献:前園主計[ほか]『図書館資料論』(東京書籍 1983)
黒沢浩編・著『新・学校図書館入門』(草土文化 2001)