小倉千加子『セックス神話解体新書』(ちくま文庫 1995 原著:学陽書房 1988)を読む。
上野千鶴子をして「こんなに芸のあるフェミニストはいなかった」と言わしめた作品である。彼女は男女間の性的奴隷制度に近い差別を、生物学的な差別に還元せず、文化的な心理的なジェンダーであると断言する。そしてさまざまな地平に存在するセックス神話を見事なまでに「解体」していく。その論理展開の勢いには多くの男性は圧倒されるはずである。
小学校で初潮指導が行われていますが、これは女子だけを対象として行なわれます。つまり男女隔離教育です。そしてその際、どのように初潮を指導するかというと、必ず「これでもうあなたもお母さんになれる」「赤ちゃんをうめる身体になれる」「素晴らしいこと」という母性過度の強調が行なわれます。初潮は「おめでとう」という言葉で迎えられなければならない、というメッセージには、女の子に母性性を肯定させる意図が込められています。生理のマイナス面は決して教えない。そして男の子は生理についてほとんど知らない。母親になること、出産することは素晴らしいというイデオロギーの押しつけで、その危険性が指摘されることはないのです。
このような勢いで性教育、夫婦間のセックス、性の商品化、男の性欲などの諸相を切っていく。しかしその勢いがあまりに良いので、ほんまかいなと思えるような箇所もある。私が男であるという点も考慮に入れつつ、「ジェンダーは、実体というよりは人々の頭の中にあるイメージにすぎないのです。」と言い切るのは少し無理があろう。神話の解体の半分くらいは納得できるが、やはり男女の脳科学の分野における実体的差異は存在するのはないか。
この点はアランピーズ&バーバラピーズ『話を聞かない男、地図が読めない女』(主婦の友社 2000)の中で男女の生来の興味・関心・行動の差異について詳しく論じられている。しかし面白い本なので、是非一読してみることをお勧めする。単に小倉氏の論が科学的な見地に立って正しいか正しくないかという点だけでなく、ものの見方を変えることで社会にはさまざまなイデオロギー装置が存在しているのだという発見ができる。また小倉氏は心理学を専攻しているだけあって心理学のテキストとして読んでも面白いであろう。大学時代にかすかに習った記憶がある「アヴェロンの野生児」や「アマラとカマラ」の話が改めて参考になった。