志賀直哉『和解』(新潮文庫 1949)を読む。
1917年(大正6年)に発表された作品で、タイトル通り結婚問題などで長年対立していた父と作者との和解を小説という形を借りて表現される。我孫子に住む主人公順吉は、上の娘の生後2ヵ月での突然死や下の娘の誕生等を経験することでこれまでの人間観を変えていく。そして病弱な祖母への労りを通して、麻布に住む父と心から和解していく心模様が丁寧に描かれる。上の娘が手厚い看病も虚しく息を引き取る場面や、下の娘の緊張の中の誕生シーンなど、見につまされる思いを禁じ得なかった。
(2番目の子の誕生の直後妻に対して)「よしよし」自分も涙ぐましい気持ちをしながら首肯いた。自分には何かに感謝したい気が起った。自分は自分の心が明かに感謝を捧ぐべき対象を要求している事を感じた。