〈老人福祉論〉

 日本の高齢者福祉は、日本国憲法で保障された基本的人権、幸福追求権、最低生活権を具体化する形で展開されてきた。1963年には「老人の福祉に関する原理を明らかにするとともに、その心身の健康の保持及び生活の安定のために必要な措置を講」ずると定めた老人福祉法が制定された。その後、1982年には「保健事業を総合的に実施し老人福祉の増進を図る」と定めた老人福祉法が制定された。この2つの法律を軸とし、地方公共団体が主体となって、金銭的な安心感を与えることで、高齢者の生活の基盤を築いてきた。

 しかし、近年では生涯教育やボランティア活動など多様な社会参加への機会の確保、生き甲斐のある充実した生活の追求など高齢者自身による主体性の発揮等を通じた、QOLの視点から、より豊かな生活の実現が期待されている。また高齢社会の進展に伴い、核家族化に対応した住環境づくり、街づくり、福祉用具の普及、また60歳代前半の雇用の確保、認知症高齢者の権利擁護等多様な福祉ニーズに対応した行政・福祉・医療・年金を含めた新しい制度づくりが求められている。

 今後、人間が人間らしく成熟していく理念の実現に向けた高齢者福祉を推進していく際に大きく3つの視点が求められる。
 一つ目は高齢者の主体性の尊重と個性および尊厳を重視する視点である。これまでのような寝たきりや施設への隔離では高齢者の人間性は守られない。居宅生活での自立支援を基調とし、多様な社会活動への参加や地域での交流の機会の確保など、コミュニティの中で高齢者を支えていくことが求められる。

 二つ目は、サービスの総合化、体系化を目指した社会計画の視点である。介護保険制度導入後、在宅や施設における様々なサービスが展開されている。民間業者も多数参入する中で、質の良い福祉サービスを維持するには、福祉や保健、医療など地域での連携とケアの質を高める専門的スタッフの配置を盛り込んだ総合的な老人健康福祉計画を作成しなくてはならない。また、地域密着の有効な福祉行政の展開には地方分権に伴う財源確保が前提とならなくてはならない。

 三つ目は給付と負担・財源の明確化である。今後急増する団塊世代以降の高齢者年金の財源確保と、赤字国債等見えにくい形で若年層への借金を残さないことが求められる。そのため、受益者負担のルールを確立を狙いとした介護保険制度や、年金の構造の抜本的な改革が必須である。

 現在誰もが納得する福祉のグランドデザインが描けないまま、現場ではいたずらな民間業者の参入による福祉サービスの質的低下が生じてしまっている。福祉に対する理解の第一歩は利用者の視点にたった福祉サービスの向上である。民間業者および市町村により厳しい情報公開と説明責任を義務づけ、透明なルールの下の競争によるサービスの充実と利用者負担の軽減がその切り口となろう。

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