御手洗瑞子『ブータン、これでいいのだ』(新潮文庫,2016)を読む。
著者の御手洗さんは、東京大学を卒業後、マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て、2010年9月より1年間ブータン政府の首相フェローとして、産業育成のアドバイスを行っている。本書ではその時の経験が綴られている。現在は宮城県気仙沼で手編みのセーターやカーディガンを販売する事業を立ち上げている。
ブータンというと、1970年代にジクメ・センゲ・ワンチュク第四代ブータン国王が提唱した「GNH(国民総幸福量)」が知られている。モノやお金の多少ではなく、国民が実感できる幸せが大切だという指標である。隣国ネパールと同じく、貧しいけど心のゆとりを持っている国というイメージが強い。
しかし、2025年の一人当たりのGNIだと、213カ国中、1位のモナコは26万ドル、9位の米国は8万ドル、日本は37位で3万6,000ドル、そしてブータンは148位の3,600ドルとなっている。これは同158位のバングラデシュの2600ドル、160位のインドの2500ドルを上回り、181位のネパールの1,400ドルの2倍以上となっている。
そのため、ブータンにはインドからの出稼ぎ労働者が多数暮らしている。また、急勾配のヒマラヤ山脈を流れる雪解け水を生かして、水力発電所が作られている。2021年末時点で、ブータンの総発電量155,925.81GWh(ギガワット時)のうち117,715.31GWhをインドに輸出している。インドへの輸出量は、発電量の75.5%を占めている。
また、外交もうまく、中印の国境紛争を利用して、文化的にインドとの関係を重視し、インドによる中国との防波堤になることの支援を引き出している。また、チベット仏教を国教とするブータンは、チベットへの弾圧を強める中国と、ダライ=ラマ14世の亡命先となっているインドとの対立をうまく利用している。米国ベッタリの日本も見習うべきところである。
