社会学という人間集団を分析の対象とする分野においてその集団の様相を図示的に理解するために用いられてきた研究手段が社会調査と呼ばれるものである。社会調査には調査者の視点に立って社会全体を細かく客観的に分析していく統計的方法と、対象者個人の一面を掘り下げていくことにより全体を総合していく事例研究法に大別される。統計的方法とは、対象とする複数の社会事象を、平均、度数分布、比率、相関係数、統計的検定等々の統計技術を用いて記述・分析するものである。一方、ある対象者の社会における全生活過程、あるいはそのある一面を示す個別事例に関する全体的な関連性を総合する方法が事例研究法(ケース・スタディ)である。この方法は統計的方法に比べ調査者の主観が入りやすいが、対象者の視点に立って問題を見ることができるというメリットがある。
社会福祉調査は福祉サービスの認知・利用・評価という利用者に関する問題や福祉サービスの改善・コストといったサービスの供給に関する問題を扱う。利用者の視点に立ってサービスの条件や仕組みについての制度的な理解を促す必要がある。また寝たきり高齢者や痴呆性高齢者の介護者、地域で生活する重度障害者のニーズといったように少数者の視点から福祉の様相を捉える必要がある。そのため社会福祉調査では利用者個人の生活が基盤となるため、事例研究法が用いられることが多い。
福祉システムのあり方は、公的介護保険の導入や地方分権の影響を受けることになるが、サービスを必要とする人々のためのニード調査や意向調査そして各種の実態調査を行ったり、データを分析する重要性が高まっている。しかもデータや資料を理解し、それらを用いて説明資料を作成したり、的確な問題提起ができるかどうかは、福祉を専門に学ぶものの力量が最も問われる事柄である。
事例研究法の流れは一般に、課題の特定化→サンプリング→尺度の構成と質問紙の準備→現地調査→集計・分析→図表などによる結果の提示という形をとる。面接調査や留置調査、郵送調査、電話調査、集合調査などを用いて、全体の平均調査からは表れにくい利用者の細かいニードやウォンツを把握していく。そしてまとめられたデータを分析し、利用者本人の視点、家族・友人の視点、地域・行政の視点から問題を捉え直し、具体的なサービス改善、新たな施策への反映などの説得力のある論拠に変えていくことが求められる。
集団全体を捉える統計的方法と利用者個人の生活全般を捉える事例研究法を組み合わせて、利用者本人にとって適切な支援方法と利用者の生活する地域や人間関係の改善のための援助方法を発想していくことが大切である。
参考文献
袖井孝子「社会学とその方法」『社会学入門』有斐閣新書、1990年