澤地久枝『もう一つの満州』(文藝春秋,1982)を読む。
もう40年以上前の本である。著者の澤地さんは4歳から15歳まで、旧満州の吉林市で過ごしている。そこでの暮らしは決して裕福なものとは言えず、日本人社会の底辺に位置付けられていたのだが、中国人にとっては侵略者として映る。
本書は著者が満州で生活していた当時、中国東北部で活動していた抗日パルチザンの指導者として活躍していた楊靖宇を巡る旅日記となっている。1930〜40年代と1980年代が交錯する展開で読みにくさはあったが、著者の丁寧に歴史を辿る姿勢が印象に残った。満州を足がかりに中国本土への侵略を強める日本軍と蒋介石率いる国民党の両方から迫撃を受けながらも、伸長していった紅軍共産党の歴史が理解できた。タイトルの「もう一つの満州」とは、五族共和とは裏腹の日本の支配の直轄地となった「満州帝国」を意味している。
